TOKYO MX(地上波9ch)の情報バラエティ生番組「5時に夢中!」(毎週月~金曜 17:00~)。8月29日(木)放送の「中瀬親方のエンタメ番付」のコーナーでは、新潮社出版部部長の中瀬ゆかりさんがおすすめのエンタメ作品を番付形式で紹介しました。

【“中瀬親方”による2024年8月のおすすめ作品】
◆関脇
コミック「もものこと 愛犬と老人の最期の日々」
著 山本おさむ(小学館)
妻に先立たれ、かつかつの年金暮らしをしている81歳の老人・刈田有三。ある日、末期がんが見つかり、余命1年と宣告されてしまう。そんな有三が、唯一の心の支えである愛犬・ももと最期の日々を過ごす姿を描いた、感動の終活譚。
<注目ポイント>
愛犬と老人の絆 社会問題についても考える機会に
中瀬親方のコメント「身寄りのない有三は、自分が死んだらももをひとり残して死ぬことになるので『それはできない』ということで、必死で里親探しを始めるんですけれども、そこに待ち受ける数々の障害や進行する病気の症状に頭を悩ませながら、ももとの最期の日々を過ごしていきます。作者の山本おさむさんは、老いとの向き合い方をものすごく上手に描く漫画家なんですけど、本作はそこに愛犬・ももとの日々や亡き妻との思い出を重ねていく描写の数々が加わっていて、猫派の私もこのラストには涙が止まりませんでした。
身寄りのない捨てられた犬の殺処分問題など、社会的なテーマを通じて動物を愛する、育てるとはどういうことなのかをあらためて考えさせられますし、そんな難しいテーマを“家族愛”が大きく包み込むことで、最後は温かい気持ちにもなれる一作ですので、ぜひ皆さん、手に取ってみてください」
◆大関
映画「憐みの3章」(R15+)
9月27日(金)より全国ロードショー
今最も勢いのある監督と言っても過言ではない、「哀れなるものたち」などで知られるヨルゴス・ランティモス監督が、エマ・ストーンとタッグを組んだ最新作。「愛と支配」をめぐる奇妙な3つの物語で構成したオムニバス作品。
<注目ポイント>
「愛と支配」をめぐる人間の不条理さ
中瀬親方のコメント「1話目は、大金持ちの男の指示通りに生きてきた青年が、どうしても受け入れがたい指示を拒否して、さてどうなりますか、という話。2つ目が船の遭難事故から戻ってきた愛する妻が別人じゃないのかと疑いを持つ男の話。3つ目が新興宗教の教祖となる人物を探すある女の話という全く別のストーリー展開なんですけれども、同じキャストがいろいろな役を演じています。
本作のテーマになっているのが『愛と支配』なんですね。桁違いの金持ちが人間にいろいろやらせて遊び始めるところとか、相手への親切心が時に支配やコントロールにつながっていくという人間の奥底に潜む不条理な部分を、それぞれの物語で描いています。
人間の不条理さって役者の演技力が高くないと伝わりづらいと思うんですけれども、そこはさすがエマ・ストーンをはじめとするキャスト陣で、それぞれの演技力に思わず息を呑む場面もたくさんあって、非常にレベルの高い作品に仕上がっています。ランティモス作品ってちょっと難解だとか、とっつきにくいというものもあったと思うんですけど、これはランティモス作品のなかでも最もストーリー性が高くて、奇妙なユーモアに彩られていて、構えて観なくても全然楽しめる作品になっています。
コメディの部分と不条理な部分が交互に描かれているので、スタンリー・キューブリックやクエンティン・タランティーノの作品が好きな方も必見の一作になっています。ぜひ皆さん、劇場まで足をお運びください」
◆横綱
絵画エッセイ「名画に見る『悪』の系譜」
著 中野京子(新潮社)
裏切り、殺人、悪徳政治、動物虐待など、それぞれの絵画に描かれた「悪」の表現方法に焦点を当てた、美術に造詣の深い中野京子による絵画エッセイ。
<注目ポイント>
1枚の絵でどう「悪」を描くか 時代によって異なる表現方法
中瀬親方のコメント「時代や国によって変わる『悪』を画家はどうやって表現したのかを、歴史的・文化的背景を踏まえながら紐解いているんですけれども、そもそも『悪』って、普段は『善』に対して捉えられる相対的なものなので、それを1枚の絵で鑑賞者にどう伝えるかって、すごく興味深いですよね。善人に見える人の裏の顔も、小説みたいに何ページも使っているわけじゃなくて、1枚の絵でどう表現しているのかとかも学べるので、ジャンルは違えど人に伝えるという仕事をしている私も本当に読む手が止まりませんでした。
とにかく全編に渡ってどの章も絶品で、中野先生のめくるめく教養が随所に炸裂していて、時代的背景の絶妙な解説や文学作品まで惜しげもなく投下されていて、どんなディテールも見逃さずに絵画を読み解く手腕にはただただ敬服します。これから絵を見るときは中野京子流に見てほしいです。たとえば、動画のない時代ですから、前後の動きまで見えるような作品もあるわけですよ。そのあたりの説明がもうため息しか出ないほど素晴らしい名文で書かれています。これはネタ本としても最高で、この本で知ったことを、『私が考えました』ぐらいの勢いで披露すれば、お酒の席で『すごい!』と尊敬されることは、請け合いです(笑)。『悪』はみんな興味のあるテーマなので、絶対盛り上がると思います。
絵画はちょっと難しいジャンルかなと思って触手が動かなかった方もいるかもしれませんけど、中野先生が書く絵画本だけは、絶対的な面白さは私が保証します。賢くなるし、面白さも満点で、こんな本を読まないなんて、人生の損失なぐらい。私はもう3回ぐらい読みましたけど、めちゃくちゃ面白いので、ぜひ読んでみてください!」
中瀬さんが推す3作品、ぜひチェックしてみてください! 毎月最終木曜日に発表するこのコーナー、次回9月のエンタメ番付は、9月26日(木)にお届けする予定です。お楽しみに。
<番組概要>
番組名:5時に夢中!
放送日時:毎週月~金 17:00~18:00 <TOKYO MX1>
メインMC:垣花正、大島由香里
番組Webサイト: https://s.mxtv.jp/goji/
番組X(旧Twitter): @gojimu
番組Facebook:https://www.facebook.com/5jinimuchuu