甚大な被害となった2011年3月11日に発生した東日本大震災から15年がたちました。 TOKYO MXは震災と向き合い、記憶や教訓を未来へつなぐ特集『震災15年-記憶を備えに-』を4回にわたってお伝えしています。今回のテーマは『大都市の帰宅困難者対策』です。大地震が発生した場合、首都圏などの都市部で懸念されている課題の一つが「帰宅困難者」です。実際に災害が起きた時、私たちはどう行動すればよいのか取材しました。
東京都庁の床に座り込み食事を取る人たちや、外ではタクシー乗り場に長い列が伸び、家路を急ぎ歩く多くの人の姿も…。東日本大震災の時には公共交通機関の運転見合わせなどにより、首都圏でおよそ515万人が帰宅困難となりました。
首都直下地震が発生した場合、2011年を大きく上回る840万人の帰宅困難者の発生が見込まれています。
<どう行動すべき?>
東京都と港区が2月9日に行った合同訓練では、首都直下地震が発生し品川駅で多くの人が帰宅困難になった想定で、駅の職員らが“帰宅困難者”の役の人たちを一時滞在施設へと誘導しました。東京都の担当者は「東日本大震災の際にもたくさんの帰宅困難者が出て、道路を歩いて帰ったり、社会インフラに対して大きな影響を及ぼしてしまった。今回、一時滞在施設に避難してもらったのは道路の混雑を軽減する目的もあり、そういったことに訓練を役立てていけたら」と話します。
一時滞在施設の利用など、その場に「とどまる」選択が道路の混雑を防ぎ、緊急車両のスムーズな通行など社会インフラを守ることになるといいます。
<事前の対策は?>
帰宅困難者の対応について東京大学で都市の防災などを研究している廣井悠教授は「帰らない貢献を一人でも多く果たしてもらうことがとても重要」と指摘します。廣井教授は首都圏で平日の昼間に大規模災害が発生し、およそ600万人が一斉に徒歩で帰宅した場合のシミュレーションを作成し、公衆電話ボックスとほぼ同じ広さの歩道1平方メートル当たりに人が何人いる状態になるかを試算しました。
シミュレーション画面の水色の場所は人が少なく、赤や紫になるほど混雑を表します。廣井教授が「東日本大震災の時の状況を再現したシミュレ―ションは、ぱっと見て分かるようにほとんどがブルー」と指摘するように、東日本大震災の直後を再現すると歩道の多くの部分が水色で、これが示すのは1平方メートル当たり0.2人から0.5人と、大きな混雑が起きていないことが分かります。
東日本大震災の時の東京都内の最大震度は5強でした。廣井教授によりますと、都内では建物への被害が少なく、家族の安否確認もある程度取れる状況だったため半数ほどの人が発災直後に帰宅せず、職場などにとどまる「時差帰宅」を選択したといいます。一方で、仮に人々が一斉に帰宅すると想定した場合、状況はがらりと変わります。都心の歩道は紫色に変わり、1平方メートル当たり6人以上が滞留すると予測されます。廣井教授は「1平方メートル当たり6人とか7人とかの状況になると、群衆事故みたいなことが起きやすい」と説明します。有事の際に多くの人が徒歩での帰宅を目指すことで、歩道で身動きが取れなくなり、転倒や圧迫による事故が起きる可能性もあると指摘します。
廣井教授は「なぜ帰るかというと、家族のことが心配で帰るということ。ではどうすればいいのかというと、一人でも帰らないで済む人を事前に環境整備することが重要」として、家族との安否確認の方法を事前に複数決めておき、連絡が取りやすいようにしておくことを推奨しています。
<企業の対策は?>
東日本大震災を契機に防災対策を強化してきたというサッポロビールの担当者は「赤く目立つようにして、ファーストミッションボックスを作っている」といいます。「ファーストミッションボックス」とは災害発生時に役割ごとに取るべき手順が記されているもので、災害本部の立ち上げや応急救護、社員を滞在させる本部のリーダーなどを、その場にいるどの社員でも行えるようにする仕組みです。
サッポロビールでは首都直下地震などが発生した場合、本社内におよそ900人が滞在すると想定し、大人数での混乱を最小限にするべく、役割ごとのカードを手に取った誰もが“指揮官”になれることを目指しています。担当者は「3・11の時は帰れたという経験があって、あの時は都内で火災が起こらなかったが、首都直下地震の場合は恐らく違うだろうと思っている。そのためにも混乱防止、命の確保という意味でも、帰らせてはいけないと思っている」と話します。
緊急時、自らの命だけではなく社会や周りの人を守るために“帰らずにとどまる選択”──。その事前の備えが求められています。
<命を守る「通信手段の複数化」と「三角連絡法」>
廣井教授は「家族や友人の安否が気になるのは自然なこと」だとして“安否が確認できたらその場にとどまってほしい”と呼びかけています。ただ、発災時には連絡が取りづらくなるのも事実です。
廣井准教授は2つの備えを勧めています。1つは『三角連絡法』というものです。被災地同士は発災直後、通信が混雑してつながりにくくなる可能性があります。その一方で、遠方との通信は比較的つながりやすい傾向にあるということです。そこで例えば、遠方の友人や親族を介して、被災地に住むお互いの安否を伝え合うなどのルールをあらかじめ決めておくことが有効だということです。そして2つ目として『連絡手段を複数にしておくこと』も大切です。通信アプリだけでなく電話番号やSNSなど、複数の連絡手段を持っておくとよいと提言しています。





