「あまちゃん」「拾われた男」「アフター・ザ・クエイク」あの井上監督が作る“東京ローカルの生ドラマ”とは…?! 井上剛監督「最初はダイハードみたいなことをやろうと思っていた」(前編)
2025.10.30(木)
12:00
TOKYO MX開局30周年記念特別生ドラマ『いいひとりの日』を11/1(土)20:00~21:00に放送します。生放送と共に成長してきたテレビ局TOKYO MX が「何が起こるか誰にも分からない」完全生放送ドラマを制作!今回は監督をつとめる井上剛さんに、番組スタッフがインタビューしました。その前編をお届けします。
みなさん初めまして。TOKYO MXに入って5年目、制作部の山田です。
私は現在、11/1(土)20:00から生放送するドラマ『いいひとりの日』の準備に勤しんでいます。
と言っても、ドラマ制作の右も左もわからぬまま、ただがむしゃらに、無事当日を迎えるために、ひたすら準備する日々を送っているのですが、この、意味わからないくらい豪華なキャストと、豪華なスタッフ陣を集めている生ドラマ企画、正直恐怖です!
『うわあ…ずっとTVで見ていた俳優さんたちが目の前で演技している…!』
『松尾さんと脚本打ち合わせしているこの空間、幸せすぎないかい?』
『あまちゃんって、マジすごい朝ドラの監督じゃん!!どういうこと?』
という毎日幸せすぎるミーハーな私の心情はさておき。
TOKYO MX30周年としても、豪華すぎるこのメチャクチャなドラマ企画をどこにも紹介しないのは勿体なさすぎます!
ということで、今回はMXで生ドラマを企画しようと思ってくださった井上剛監督と、一緒に企画した延江さん(TOKYO MXプロデューサー)の座談会を開いて色々生ドラマの裏話を聞く予定だったのですが…
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(MX山田)本当は延江さん(プロデューサー)と監督の2人の対談の予定だったんですけど、ちょっとなんか立て込んでいて延江さんがいなくて…
(井上監督)いない、って笑
(MX山田)ちょっととりあえず延江さんが来るまで1ショットでもいいですか?途中から来れるみたいなんですけど…
(井上監督)はい!後ほど!

◆初っ端プロデューサー不在で座談会始まる
(MX山田)まず、今回MX開局30周年ということですが、どうやってこの企画が誕生したんですか?
(井上監督)延江さんとお会いして何か面白いことができたらいいですね!と話したことがきっかけです。
延江さんのお父さん(延江浩さん)と僕が仲良くさせていただいてて、「うちの息子紹介するからご飯に行こう」ってなりまして。
そこで「MXってどんな会社ですか?」って会話している中で、「面白いですねー」ってなって、「何か一緒にやれたらいいですね」と言われたので「生ドラマやりましょう!」って最初っから言いました。
(MX山田)どうして生ドラマだったんですか?
(井上監督)単純に生ドラマだったら時間がかからないから。
(MX山田)笑
(井上監督)それから企画が決まったのは8月くらい。8月くらいに「やっぱやります!」って延江さんから連絡が来て。
その前に松尾くんとは「MXさんと何かやるかもしれないから、脚本書かない?」って話はしてたんですよね。そしたら「やります、やります!」って。
でも、半年くらいはMXから何も連絡がなかったです。笑
(MX山田)やれるってなった時はどう思いましたか?
(井上監督)本当にやれるんだろうか?って思いましたね。ドラマをやるのは大変だから。
(MX山田)何が一番心配でしたか?
(井上監督)お金?最初は笑
次は、どういう話にするかを迷いましたね。
MXさんって、何か新しいものというかマニアックで尖ったものを求めているということで、それを考えるのが最初は大変でしたね。
でも、楽しそうだなと。なかなかそういうオーダーはあまりないので。ないってことはないけど、ちょっと質が違うというか、同じ挑戦ということにおいても、違ったなーなんか本当に変わった会社だなと思いました。
(MX山田)笑
(井上監督)山田さんが(この企画に)入った頃はまだ何も決まってなかったよね。
ただこの社屋を使ってやりましょう!ってことくらい。
やたらオープンだったんですよ。まだこの企画をやるとか何も聞かされてないのに、社内案内されて笑
ここも使えます!あそこも使えます!って5月か6月だかくらいに。
やるって決まってないのに、やたらとあけっぴろげに社内を見せるから変な会社だなーと思いました。役員室から何から。
(MX山田)NHKではそんなことないですか?
(井上監督)ないですよ!!そりゃやるかどうか決めてからこういうところがありますってやるじゃないですか。
しかもそれから3ヶ月くらい何もないですからね。
◆「ダイハード」の予定だった生ドラマの物語
(MX山田)MXの社屋を使って、ということですが、どうやって松尾さんと物語を考えましたか?
(井上監督)最初はダイハードみたいなことをやろうと思ってました。
松尾くんがキッチンカーで売りに来ているデリバリーのおっさんで、社内にテロリストが現れるんでそれと戦いに行くっていう物語で。ビルの各階フロアを使って上がっていってみたいな…
でも、大変そうだからやめようって。
こだわったらキリがなくなりそうだったので思考を変えようとなりました。
でも、しばらく僕はダイハードに取り憑かれてました笑
(MX山田)そこからどうして今回の物語になったんですか?
(井上監督)今回の形になったのは、山田さんも入った時だよね。
打ち合わせをしているときに、公開プロポーズをした人がMXの社員にいますという話に僕と松尾くんが食いついて、「それじゃん!」ってなって。
玄関前にあるスタジオを使いたくて、元々あそこでテレビショッピングとかやったら楽しそうだなと思っていたので、それが原田さんの番組になって、その1コーナーが公開離婚になってと、みんなで集まったときにアイデアが生まれましたよね。1発で。それまではダイハードしかなかったです笑
なんかMXの社屋が面白い形してるなと思ったんですよ。これをなんかうまく使えないかなって。だって一番上は写真館でしょ?それでここは結婚式場だったんでしょ?そんな放送局ないですよね。
結婚式場と食堂の跡みたいなのもあると聞いたから、そういうのを使ったら楽しそうだなって。各階駆け巡ったら面白いかなと思いました。裏の守衛さんがいるところとかも使って、どこから侵入しよう?みたいな。
(MX山田)そんな中で公開プロポーズが引っかかったんですか?
MX的にはよくスタッフが番組に出ているからそんなに珍しいものだと思ってもいなかったと思います笑
(井上監督)いや面白い!
普通はやらないでしょ、社員が出てきて。体張りすぎですよね笑
それが面白いなと思って、でもそのままやるとそのまますぎるので、今回は公開離婚で行こう!となりました。
後半戦、宮澤エマさんが出てきて大東くんと実は夫婦でとなって、その2人も離婚企画に参加させたいねとなったんですけど、ただ離婚しましたじゃなくて最後までエマさんが番組を引っ掻き回すようなことができるドラマにできたらいいなと思ったのが苦労したところです。
そしてやっぱ原田さんですよね。原田さんをちゃんと最後まで言葉悪いけれど、使い倒すというか、どうやったら面白くなるのかということを考え続けました。
(MX山田)原田さんは『カンペがないと喋れないMC』という役柄でしたよね
(井上監督)だから今回の生ドラマではカンペが重要っていう。テレビ局のとても大事な伝統芸じゃないですか。テレビしかないですからね、カンペなんて。
◆カンペはテレビマンの魂?
(MX山田)ドラマとカンペってなかなか結びつかないですよね?
(井上監督)昔は生ドラマの最中はみなさんカンペを読んでいたそうですよ。
僕が黒柳徹子さんの自伝をドラマ化した番組(『トットてれび』)をやったことがあって、その時に知ったことなんですけど。
昔は多くの番組が生放送の時代で、でもめっちゃ出演者皆さん忙しいじゃないですか。そうするとセリフとかを覚えてられないわけですよ、毎日生放送だから。今で言うと、朝ドラが全部生みたいなもんですよ。
あんなの覚えられるわけないじゃない、あんなセリフの量。
そうすると、やっぱりいろんなところにカンペが置いてあったそうなんです。いろんな小道具の裏とか、襖に書かれていたりとか。
そう言うの聞いて面白いなって思っていたんですよね。
そうしたら、たまたま延江さんのお父さん(延江浩さん)がその『トットてれび』が大好きだったそうで、(物語上に出てきた)そのカンペの話も面白かったって言ってくださったんですよ。そしてDVDを買って僕にサインしてくれって言ってきたんです。
だから、もしかしたら今回の企画にも延江さんのお父さんの意思が流れているのかもしれないです。
結局生ドラマになってるし、テレビ局の話になっているし。最終的にはカンペに行き着いているし。
テレビマンのコアなところじゃないですか。魂というか。
それを知ってか知らずか、息子である延江仁さんが頑張ってこの企画をやっているということだと思います。
なので、生ドラマの裏テーマ的にはテレビマンの熱い思いがあるんじゃないですかね。…いうほど僕と松尾くんにはないんですけどね笑
(MX山田)あれ?笑
(井上監督)でもMXにそれを感じたので、それをバカっぽく表現できたらいいなと。
(MX山田)MXのどんなところに熱い思いを感じましたか?
(井上監督)(MXの人って)みんななんでもやるじゃない?
一番最初に企画会議に出た時に、MXの編成の人などもいろんな人がいたんですけど、みんなお金の回収のところまで考えていて。たとえば、物販したグッズを放送翌日にフリマに出そうとか言っていて、すげえ熱い人たちだなって思いました。
普通、そういうこと考えていたりするけど、やらないじゃないですか。
だって番組のディレクターが翌日フリマやったりなんてしないじゃないですか。他の放送局だとそういうところは分業しちゃう。でもMXはみんなでやろうとするじゃない。それがすごいなーって。
◆衝撃だったのはMXに美術部がいないこと
(井上監督)いろんなところで言ってるけど、一番驚いたのは、『美術部がいない』ことです。
美術部いないのにドラマやるってすごいなーって、そんなの初めてなんですけど。
普通はデザイナーがいて、大道具がいて小道具がいて。
今山田さんが作っているようなものも、普通だったら別の人がやってるんです。
なんでかっていうと、たとえば小道具がものによってはNGが出たりした時、他にも何個か用意しなきゃとかするじゃない?
そういう事態も考えて、現場では普通は美術部がいるんだけど、それだけじゃなくてセットも作るし、環境も作るし。とかいうのをやるんですよ。美術まわりをトータルで見ている人が。
でもMXにはそれがいない。すごいなって。
(MX山田)それがいないって聞いて監督的にはどう感じたんですか?
(井上監督)だからダイハードにしなくてよかったと思いました笑
あれは美術ありきの話だったから。美術部がいても難しかったと思うけれど。
今回の生ドラマはテレビセットで、ここにあるものを使ってという設定だから工夫してやれるから。そういうのがなんか熱いなって。なんとかしようとするし。
普通だったら自分の担務じゃないからアウトソースするのに、MXはそこをしないじゃないですか。
自分でみんなやろうとする。それがすごいなと思いました。
でも実は昔のテレビ局はそうで、まだあんまり分業制がない頃は、作り手が全部を抱え込んでやっていたんです。だからMXに来ると昔な感じがします。
NHKのローカル局の感覚とものすごい近いです。ローカル局も美術がいないので。
(MX山田)監督もローカル局を経験して?
(井上監督)してますしてます。
僕もローカル局にいた時代があったので、似てるなと思いました。全部やるから。その熱さがMXにはちゃんと残っているなと思いました。
(MX山田)嬉しい!
ちなみに監督的に今回の生ドラマの本番楽しみにしていることはなんですか?
(井上監督)放送が出ることですかね。放送が出たーということ。
放送がちゃんと流れることが楽しみです。
<ドアガチャっ>
(MX延江)すみません!遅れました。
(井上監督)なんかハアハア言ってるけど大丈夫?
<後編に続く>
◆井上剛◆
1968年熊本県熊本市生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。93年NHK入局。ドラマ番組部や福岡放送局、大阪放送局勤務を通して、様々なジャンルのテレビ番組制作に関わる。おもにドラマやドキュメンタリーの演出・監督・脚本・構成を手がける。代表作に、数々の話題を生んだ連続テレビ小説『あまちゃん』や大河ドラマ『いだてん』特集ドラマ『その街のこども』土曜ドラマ『ハゲタカ』『64』『トットてれび』などがある。
『その街のこども』『LIVE!LOVE!SING!~生きて愛して歌うこと~』はドラマとドキュメンタリーの融合した演出が注目を集め、映画監督作品として劇場公開もされた。『拾われた男』はDisney+とNHK エンタープライズの共同制作の配信・地上波ドラマとして人気を博した。
2023年7月末日、NHKを退局し株式会社GO-NOW.を設立。フリーの監督・演出家として活動。現在、村上春樹原作の映画「アフター・ザ・クエイク」が公開中。

◆ドラマあらすじ
TOKYO MXの開局からちょうど30年となる2025年11月1日夜8時。
新たな生情報番組『原田龍二のイキタイ!』の放送がスタートした。
番組では視聴者からの応募で採用された企画「ハンコおしてちょーだい」を実施。
11月1日=「いいひとりの日」にちなみ、一般参加の夫婦が離婚届に判を押すという衝撃の企画である。
番組のフロアディレクター・千代田は企画に乗じてあるサプライズをしようと企んでいた。
ところが集まった参加者の中に、番組プロデューサー・内堀の妻・靖子の姿があり、
事態は思わぬ方向へと転がっていく……
<番組概要>
タイトル: TOKYO MX開局30周年記念特別生ドラマ『いいひとりの日』
放送日時: 2025年11月1日(土)20:00~21:00 生放送<TOKYO MX1>
配信:楽天の無料動画配信サービス「Rチャンネル」にてリアルタイム配信
放送後「TVer」にて見逃し配信 https://tver.jp/series/srrd8dsiu2
出演: 大東駿介、松尾諭 ほか
スタッフ: 企画・監督:井上剛
脚本:松尾諭
プロデューサー:延江仁(TOKYO MX)
製作・著作: TOKYO MX
番組ホームページ: https://s.mxtv.jp/drama/iihitorinohi/
番組SNS:
X:https://x.com/namadrama_mx
Instagram:https://www.instagram.com/namadrama_mx/
TikTok:https://www.tiktok.com/@namadrama_mx
番宣動画: 第1弾:https://www.youtube.com/watch?v=FsJPklg_wGk
第2弾:https://www.youtube.com/watch?v=grx6GzbKEu8
第3弾:https://www.youtube.com/watch?v=Bl758Udfy50
※内容は都合により変更となる場合があります。予めご了承ください。





