東京23区で高騰する火葬料金、その背景には物価&人件費の増加、公営葬儀場の少なさ、さらに根幹には“広がる格差”も…

2025.10.13(月)

06:50

TOKYO MX(地上波9ch)の報道・情報生番組「堀潤 Live Junction」(毎週月~金曜20:00~)。今回の放送では、東京23区内で問題視されている“高騰する火葬料金”について取り上げました。

TOKYO MX(地上波9ch)の報道・情報生番組「堀潤 Live Junction」(毎週月~金曜20:00~)。今回の放送では、東京23区内で問題視されている“高騰する火葬料金”について取り上げました。

◆全国に比べ突出して高い23区の火葬料金

現在、東京・荒川区の民間葬儀場でかかる火葬料金は9万円。全国には無料の自治体も数多くあるなか、23区は突出して高い金額となっています。運営する事業者は「物価や人件費の高騰などが大きな理由」としていますが、都民からは料金の高騰に、戸惑いの声も上がっています。

この問題の背景には、23区内に公営の葬儀場が少ないこともあります。全部で9ヵ所の葬儀場があるなか、公営は2ヵ所のみ。一方、全国で見ると料金を公費で負担する公営が97%。23区は民間の事業者が格段に多いことも火葬料金を押し上げるひとつの要因となっています。

この事態を受け、小池知事は定例会見で都として調査し、具体的な取り組みを検討すると説明しています。

この状況に対し、フリーキャスターの伊藤聡子さんは「誰もが必ず死ぬわけですから、火葬場はインフラ。そう考えると、(火葬料金は)税金のなかに組み込まれていてもいいと思う。それに、民間に任せてこんなに格差があるのはおかしい」と率直な思いを吐露。

哲学者の萱野稔人さんも「市場原理に任せるのであれば、選択の余地があるものに限る。ただ、火葬は“やらない”という選択肢がないので、それを民間業社が担うことが適切なのか。あとは、昔は遺体が残っていることが公衆衛生上問題で、だからインフラを整えた。その観点からすると、公益性は高いので、もう少し公が介入してもいいのかなと思う」と意見します。

一方、キャスターの堀潤は「この問題に関しては、民間の事業者が一気に引いてしまったときにそれを請け負う誰かがいるのか」と懸念。

そして、ドイツ公共放送プロデューサーのマライ・メントラインさんもこの難問に頭を悩ませ、「最近は燃料価格や人件費も上がっているなか、民間業者に値下げしろと簡単には言えないと思う」と憂慮します。

◆民営の火葬料9万円は妥当な金額!?

各葬儀場の料金を見てみると、公営の東京都瑞江葬儀所は5万9,600円。大田区や港区、品川区など5区が共同で設置・運営する公営・臨海斎場は4万4,000円です。一方、板橋区にある民営の戸田葬祭場は8万円。その他、6ヵ所の葬儀場は同じ民間事業者が運営しており、いずれも9万円となっています。

しかし、全国には1,363の葬儀場がある中、97%は公営で税金が使われており、無料から1万円程度のところがほとんど。例えば、横浜市は1万2,000円。さいたま市は7,000円、千葉市は6,000円です。

では、どうするべきなのか。斎場を増やせといってもそれは簡単ではありません。萱野さんは「補助金みたいな形で援助をする関与はあり得るが、全て公営にするのも現実的ではない」と苦慮。一方、伊藤さんは「日本は高齢化社会で(今後さらに)多死社会になっていくなか、これは責任を持ってやっていかないといけない。民間であろうと料金は一律にし、(火葬を)人としての権利にしていくべき」と主張します。

火葬料金について、東京都の担当者によると、東京都瑞江葬儀所は原価計算で料金を決めており、税金の運営ではなく利用者に経費を負担してもらっているとのことで、原価に基づいているので高い金額ではないとしています。一方、6ヵ所の葬儀場を運営する民営の東京博善は、2012年は5万9,000円だった料金を、燃料費などの高騰から2021年に10年ぶりに改定。その後も徐々に値上げし現在の9万円に至っていますが、火葬料金からは利益は得ていないと説明しています。

また、火葬場の建設や運営サポートなどを行う団体「火葬研」の武田至会長に話を聞いてみると「火葬料金の原価は8万円前後かかる。それに対して自治体は、税金で補填しているので安い火葬料金・無料でできる。23区だけが日本全国で見ると特別」と言います。さらには「23区は民間がサービスを提供していたが、その負担が厳しいというのであれば公共サービスとして整備するか、例えば、その費用負担を行政が行うなど考えていかなければいけない」との指摘も。

加えて、新たに公営の葬儀場を作るにしても住民からの反対運動が起こる可能性があり、設置までに時間がかかることもあり、民間の運営に頼らざるを得ないと話します。

◆加熱する火葬料金問題の根幹にあるものとは?

23区の火葬料金の高騰はどう対応するべきなのか。マライさんは、官民の歩み寄りを促しつつも「結局、誰もが死ぬので(火葬料金を)積み立てるようなシステムを作る。それもあまり負担にならないようにして、残りは都や国が負担するようなシステムに切り替えてもいいのかもしれない」との考えを述べます。

伊藤さんも「東京は、ひとり住まいの高齢者が増える。そうなると看取ってくれる人がいない状況で火葬しないといけなくなるので、それは公で面倒をみないといけない。だから生きているうちに税金を納め、最後(火葬料)は無料にしたらいい」と生きているうちに税金で徴収することを望みます。

また、萱野さんは「身寄りのない遺体は公的な費用で負担すると考えると、身内がいる方が不利という話になり、公衆衛生の観点からもモラルハザードが生じる可能性もある」と公平性に関する問題を示唆するも「ただ、人はいつか死に、遺体を処理しなければいけないことを考えれば、生前に税金で負担する。それで公費で(火葬を)やる形がむしろ公平なのかもしれない」とも。

なお、都議会ではこの問題に対し、公明党が墓地埋葬法の改正などについて厚労省に要望を出しています。その中身は経営主体を方自治体などにしていくことや料金設定は知事の認可を必要にすること、行政の立ち入り調査を可能にすることなど。そして、民間の火葬場が経営主体となっている限り、問題は解決しないと指摘しています。

さらに、立憲民主党などが作る会派は、臨海斎場を視察。そこでは料金設定の透明性を感じたそうで、残る課題は民間の火葬料金の透明性の担保で、都議会で国の法改正だけではなく条例を作ることなども訴えていきたいとしています。

ここで堀から「今、公共に資するサービスの社会課題解決と経済成長の両立を目指す民間の“ゼブラ企業”が、1社でやるのは無理だからグループを作ってやりましょうと中小企業庁を仕掛けている。この問題も事業者が1社に偏っていたりするので、死を迎えるときの民間アライアンスを再編して、一部と事業者と公共の話にしないように、もう少し知恵を集めることが必要なんじゃないか」との意見が。

これに、伊藤さんも「公と民が協力しながら新しい形というのは確かにある」と賛同。その上で「ただし、死はみんなに訪れることだから地域差がないほうがいいと思う」と言います。

総じて堀はこの問題の根幹にある“格差”に言及。「フェアに死ぬことを考えなくてはいけないくらい格差が広がっている」、「格差が広がっているからこそ、この問題が大きな議論になっているんじゃないか」と案じていました。

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<番組概要>
番組名:堀潤 Live Junction
放送日時:毎週月~金曜 20:00~21:00 <TOKYO MX1>
無料動画配信サービス「Rチャンネル」でも同時配信
キャスター:堀潤(ジャーナリスト)、豊崎由里絵、田中陽南(TOKYO MX)
番組Webサイト:https://s.mxtv.jp/variety/live-junction/
番組X(旧Twitter):@livejunctionmx
番組Instagram:@livejunction_mx

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