東京・多摩地域の自治体の中には、少子化などの影響で公務員を目指す人の減少に苦慮しているところがあります。

多摩市では新卒採用への応募は2019年度は906人いましたが2023年度には410人になり、半分ほどに落ち込みました。また選考で採用が決まっても、民間企業に就職するため辞退されてしまったり、職員となった後も数年で民間や東京都職員として転職する人も少なくないということです。採用の強化が急務となる中、多摩地域の隣接する3つの自治体が初めて合同で職員採用の説明会を行いました。
多摩市・日野市・稲城市が5月に合同で行った採用説明会は、志望する市役所の説明を聞きに訪れた学生らに、近隣の自治体にも関心をもってもらおうと初めて開かれました。
会場にはさまざまな職種の個別相談ブースが設けられたほか、民間企業から転職した職員らによるパネルディスカッションが行われました。この中で稲城市・企画政策課の上原心さんは「一職員が影響を及ぼしやすい・いい施策をすれば市民に還元できる・自分のチャレンジで面白いことができると思ったのが、稲城市役所で働き始めたきっかけ。そういったところも見て、参考にしてもらえれば」と語りました。
一方、参加した大学生は「日野市だけを見ていたが、多摩市や稲城市の魅力も一緒に吸収することができ、受けてみようかなと選択肢が広がった。有意義な説明会だった」「稲城市には高校時代にお世話になったが他の市はあまり知らなかったので、どんな市なのか知ることができたのは自分にとってメリットが大きかった」などと話していました。
多摩市・人事課の森合正人課長は「これまでは単独で採用活動をしていたが、単独となるとそれぞれのチャンネル、周知やPRしていくもの自体が一自治体に限られて限界がある。3市の連携力・総合力・発信力をフル活用していくところが一番の強みになる」と話しています。
<町田市、ゼルビアに職員派遣 民間と人事交流>
一方、職員の採用だけでなく育成に力を入れる自治体もあります。
町田市では今年度から新たに職員を地元企業に派遣する制度を始めました。きっかけは市が2024年に職員を対象に行った意識調査で「市役所での今後のキャリアを『イメージできない』」という回答が半数ほどに上ったほか、「社会情勢の変化に合わせた知識を獲得する機会が十分か」という問いに対しても否定的な意見が半数を超えていたことです。この結果に加え、町田市の石阪丈一市長自身が横浜市の職員時代に民間企業に出向した経験も後押しとなり、職員を派遣する取り組みが始まっています。
Jリーグの試合の会場を設営しているのは、地元のサッカークラブ・FC町田ゼルビアに派遣されている町田市の職員・笹本雄佐さん(35)です。2014年に市の職員となった笹本さんは、これまでスポーツ振興課や市のデジタル戦略室などの部署で働いてきました。そして4月からゼルビアの地域振興部に派遣され、町田市民やサポーターの健康への意識を高めるイベントの企画や運営を行っています。笹本さんは「スピード感もそうだし、いわゆる縦割り型だったのが、部署をまたいでも同じプロジェクトチームとして動くというところが役所にはない部分で新鮮」と語ります。
この日のJリーグの試合で笹本さんは、スタジアム周辺を活用するフォトラリーのリーダーを任されました。
スタジアム周辺には選手をかたどった等身大の写真パネルが設置され、撮影スポットを歩いて巡って健康増進につなげる試みで、5カ所で撮影を済ませるとチームのグッズがもらえる仕組みです。
当日はあいにくの雨でしたが、大勢のサポーターらが撮影スポットを巡り、思い思いのポーズで撮影を楽しんでいました。イベントに参加したサポーターらは「自分の推しの選手と一緒に写真を撮れてうれしかった」「町田市から出向していますよね。新しいことをどんどんやってもらった方が楽しめるので、ぜひいろいろ企画してほしい」などと話していました。
イベントを終え、笹本さんは「予想しなかった雨で参った部分もあったが、1つ成し遂げるために(部署の垣根を越えて)目線合わせしていくことが大事なんだとクラブに派遣されて思ったので、役所に帰ってもそういったところを大切にして、周囲に伝えながら事業を成功していくことを意識できればいい」と話しました。市役所の未来を担う笹本さんに、町田市の石阪市長も「民間企業が持っている競争性・スピード・業界他社との比較で成長していく。そこを身に付けてほしい」と期待を寄せています。
<民間企業への派遣について 大学教授は…>
多摩地域の産・官・学・民の連携などをテーマに研究する多摩大学経営情報学部の長島剛教授は、自治体職員の民間派遣について「与えられた業務の範囲を超えて一歩踏み出し、自分で考え行動する力を身に付けられる」と話しています。
また、市職員自身も積極的に役所の外に出て地域の人との関係性を深めるなど、地域を支える一員であることを認識することが大切だと指摘しています。