「富士山大噴火」その時、東京への影響は? 火山灰10センチ降灰の想定も

2025.05.15(木)

10:10

今回取材したテーマは「富士山が大規模噴火した時、東京都内の被害と備えはどうなっているのか」です。富士山が噴火するなんて…と思う人もいるかもしれませんが、歴史的に見てみると、富士山はたびたび噴火しています。

今回取材したテーマは「富士山が大規模噴火した時、東京都内の被害と備えはどうなっているのか」です。富士山が噴火するなんて…と思う人もいるかもしれませんが、歴史的に見てみると、富士山はたびたび噴火しています。

最後の噴火は今からおよそ300年前の1707年「宝永噴火」で、この時には江戸=現在の東京都心にも2週間にわたって灰が降り続いたといわれています。この噴火が現在起こった場合をさまざまな気象条件で計算し、最も多く火山灰が積もる場合を推定した専門機関のデータでは、八王子市や町田市の一部で10センチ程度、その他の都内でも2センチ程度灰が降ると想定されています。また、気象庁では4月に有識者らで作る検討会がすでにある「噴火警報」とは別に、火山灰への対応を迅速に行えるよう「火山灰警報」などの導入を提言し、気象庁が検討を進めています。

想定される火山灰が降った場合、都内では原則として在宅避難となりますが、暮らしにどんな影響があるのか取材しました。

富士山が噴火した場合、およそ100キロ離れた都内ではどのような被害が出るのでしょうか。「火山灰警報」の検討を気象庁に提言した有識者会議の座長を務める富士山科学研究所の藤井敏嗣所長に話を聞きました。

まず“富士山が噴火した場合、東京でも影響を受ける可能性はあるのか”という点について、藤井所長は「噴煙を空高く噴き上げるような爆発的な噴火の時には、東京に必ず影響が及ぶ」といいます。そして「噴火が始まって1時間もたたないうちに東京上空に真っ黒な雲が来て、20~30分後にはバラバラと火山灰が降ってくる状況になる」と予想します。

噴煙を吹き上げる噴火の場合、上空1万メートルに吹く西寄りの風に乗って、都内にも火山灰が降ると想定されています。都心で予想される灰の量は2センチ程度で、特に大きな影響を受けるのが交通インフラのようです。藤井所長は「鉄道のレールの上に火山灰が0.5ミリ積もると、電車は全部止めることになる」と警告します。藤井所長によりますと、鉄道事業者が電車の位置を把握するためのレールと車両の間に流れる電気が通らなくなり、運行ができない事態に陥るということです。

さらに自動車については、火山灰で辺りが真っ暗になるため、30メートル先も見通せないような状況が予想されます。多摩地域で想定される10センチの灰が積もった場合を想定した実験では、一般的な自家用車は前輪が空回りしてしまい、進むことができなくなりました。そして生活インフラにも影響の恐れがあると藤井所長は指摘します。藤井所長は「貯水場に火山灰が降ると、不純物、火山ガスの成分が貯水槽の中に溶け込んでしまうので、飲み水として適さなくなる。もしそういうことになれば水を止める、断水が起こるかもしれない」といいます。

では、都民や行政は今、何をしておけばいいのでしょうか。また、備えはどうあるべきでしょうか。藤井所長は「東京に火山灰を降らすような噴火になるのかどうかは、実際に噴火が始まらないとなんとも言えない」とした上で「道路が使えなくなっても復旧するまでの間は自宅でこもっていられるように、あるいは会社で生活できるぐらいの備蓄は必要」といいます。そして「できれば1週間分ぐらいの水と食料、さらに断水に備えて簡易トイレも準備しておくといい」と提言しています。

<東京都・公共インフラの備えは?>

東京都は2024年度、火山に関する防災計画を見直し、翌2025年2月に素案を発表しました。

まず電気については、灰が付いた上で雨が降ると停電する可能性があり、停電するとさまざまな分野に甚大な影響が出る恐れがあります。数センチの降灰で発電量そのものも低下することが予想され、東京都は復旧作業の当たる人の防じんマスクやゴーグルの備蓄や、清掃装置の配備を求めています。東京電力のグループ会社はすでにこれらを配備しているということです。

続いて下水道です。雨が降った場合、流された火山灰で下水道管が詰まり、下水があふれることが予想されます。また、停電した場合はろ過装置が止まり、下水道の使用制限にもつながります。このため、都は計画の策定や作業員の防じんマスク・ゴーグルの備蓄を求めています。これに対し東京都下水道局は現状、対応を検討中で、必要な数を精査中だとしています。

水道については、火山灰で水質が悪化すると飲めなくなったり断水したりする可能性があります。都は機能維持の体制や自家用発電設備を求めていて、東京都水道局は「必要な浄水場には火山灰が入らないよう沈殿池へのふたを設置済み」「発電設備も災害に備え、ほぼ整備が完了している」ということです。

火山灰はいわば“石の粉”なので、雪の10倍以上の重さがあります。火山灰数十センチで木造家屋などはつぶれるともいわれています。東京の場合、基本的には「在宅避難」となると考えられていて、都内での直接死はないと思われますが、関連死が増える可能性はあります。現状で噴火が起こるような予兆はありませんが、今後、行政やインフラ面でも対策をさらに進めるとともに、私たちも災害への備えを再確認しておく必要はあるようです。

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