聴覚に障害がある人の国際スポーツ大会「デフリンピック」が2025年11月、日本で初めて開催されます。聴覚障害者の当事者団体である全日本ろうあ連盟、東京都、東京都の外郭団体・スポーツ文化事業団で運営され、期間中には70~80の国・地域から選手団などおよそ6000人が集まるとみられています。聴覚に障害のある人が海外からも多く集まる中、東京デフリンピックでどのように情報を伝えていくのか取材しました。

東京・板橋区内の練習場で練習をしていたのは、東京デフリンピックへの出場が内定しているデフ卓球の亀澤理穂選手です。東京で行われる大会ということで意気込みを聞くと、亀澤選手は「目標はもちろん金メダルを取ること。メダルを取って恩返ししたい」と伝えてくれました。
<海外選手への情報伝達は>
11月に日本で初開催となるデフリンピックですが、その大会成功の鍵を握るのが「コミュニケーション」です。実は、選手が使用する手話は、音声言語と同じように国ごとに異なります。例えば「友人」という手話も、日本の手話とアメリカの手話では表し方が異なります。各国の手話とは別に世界共通で使える手話として「国際手話」と呼ばれるものがありますが、現在、通訳として登録されている人は日本全国で14人です。大会にはさらに80人の国際手話通訳者が必要だとして、聴覚障害者の当事者団体である全日本ろうあ連盟が養成研修を行っています。
大会期間中は70~80の国・地域から選手団などおよそ6000人が集まります。各国の選手たちとのコミュニケーションについて、東京都は手話とは別のアプローチも考えています。デフリンピック準備運営本部・総務部シニアマネジャーの板倉広泰さんは「(情報を伝えるためには)視覚による情報保障が必要。デジタルのコミュニケーション技術が発達してきたので、そうしたものを普及するきっかけにできればと思っている」と話します。大会会場など38カ所に会話を文字に起こして表示し、英語などにも翻訳できるディスプレーの普及が進められています。さらに東京都ではコミュニケーションの助けにしようと、公共交通機関や数字を指さしで伝えられるボード「ユニバーサルチャットボード」を試作し、大会会場近くのホテルや飲食店への配布を検討しています。
<緊急時の対応はできるのか>
大会では選手や関係者など聴覚に障害がある人が多く集まるため、緊急時の対応についても対策が求められています。
デフ卓球の亀澤選手は「煙が出たらアラームが鳴るかと思うが聞こえない。娘は健聴なので、娘に教えてもらう形になると思う。(海外で)災害に遭ったらと考えたら怖いですね」といいます。
亀澤選手は「見える情報」を求めています。亀澤選手は「こうなってほしいと思っているのは、すぐSNSが更新されるとかメモで『今、火事がありました』とか、誰でもいいから配ってくれたらすぐ気付けるのではないか」と提案しています。
全日本ろうあ連盟も地震や火災など、予期せぬ緊急時の対応に懸念を示しています。全日本ろうあ連盟の山根昭治事務所長は「聞こえない人が災害時に情報が入らないのは非常に大きな課題」としています。山根事務所長は、2024年の元日に発生した能登半島地震でも「津波の警報が出ていることを知らないまま生活を続けていた聴覚障害者がいた」と話します。そして『聞こえない人が近くにいることを当たり前だと思ってほしい』と、社会の変化を訴えています。