大災害に備え「地域防災」、商店街と町会と品川区はどう連携するべきか?パブリックミーティングで徹底議論!
2025.01.17(金)
06:50
TOKYO MX(地上波9ch)の報道・情報生番組「堀潤激論サミット」では、関係者や専門家、さらには首長を交えて、品川区の地域防災に関するパブリックミーティングを実施しました。

◆地域防災に関する商店街と町会の連携は…!?
約400もの店が並び、地元民だけでなく、多くの観光客が訪れる品川区の戸越銀座商店街(以下、商店街)では、数年前から防災イベントに力を入れています。令和5年度の「防災まちづくり大賞」で消防庁長官賞にも選出された「まちなか防災訓練」を年に数回催し、防災訓練にわざわざ行くのではなく、訪れた場所に防災訓練がある形を目指しています。
ただし課題もあり、商店街の広報担当・亀井哲郎さんは、「(地元の)町会の方々と連携できているかといえばそうではなく、本来は一緒に(防災対応やイベントなどを)やっていきたい」と理想を語ります。
一方、商店街と隣接する戸越二丁目町会(以下、町会)は独自で防災訓練を実施していますが、商店街との連携について聞いてみると、町会長の小林悦子さんからは、「(連携は)難しい」と消極的な反応が。
そこで今回は、双方意見が食い違う商店街と町会の代表者に加え、都市防災の専門家、さらには品川区の森澤恭子区長などを交え、地域防災はどうあるべきか、パブリックミーティングで議論しました。
まずは、町会が独自に行っている取り組みを整理してみると、年に1度の炊き出し訓練や地域のお祭りやイベント時の防災訓練、そしてAEDの訓練や消火体験なども行っています。さらには、町会員で結成されている区民消火隊による放水訓練も毎月実施。しかし現状課題もあり、それは参加者の固定化。若者をはじめとする新たな人材の取り込みが急務となっています。
この課題に対し、商店街側としては商店街をうまく利用してほしいと望むものの、町会としては規模が大きくなってしまうのも問題だそうで、「自分の町会内で行う分にはまだいいが、規模が大きくなればなるほどスタッフの問題が出てきたり、役員の負担も増え、また大変になってしまう」と小林町会長はジレンマを吐露。
加えて、町会の副会長・佐藤秀利さんからは「戸越銀座商店街に隣接している町会は8つあり、我々の町会だけでなく全ての隣接町会を巻き込んで戸越銀座商店街を中心としたイベントをやれば、より充実したものになっていくのではないか」との意見も。
ここまでの話を聞き森澤区長は、「商店街は区の内外からさまざまな方が来訪されていることを考えると、災害時に帰宅困難が起こる可能性がある。いろいろなケースを想定し、商店街と町会の皆さんが連携できると地域としても強固な防災対策になるのかなと思う」と両者が互いに手を組むことを熱望。
この意見に対し、商店街の副理事長・遠藤利夫さんは「戸越銀座商店街はいろいろなものを販売しているので、備蓄庫の役割も果たせると思う。帰宅困難者が発生したときに受け入れたり、地域に住んでいる方々の備蓄庫として機能できないか計画している」と商店街側の思いを伝えます。
都市防災が専門の東京大学の廣井悠教授も、災害対策に地域の連携は必要不可欠な要素と声を大にします。例えば、大地震で被害拡大を招く大きな要因が地震火災ですが、起きてしまった場合に何より大事なのは“地域住民による初期消火”で、“知らせる”、“消す”、“助ける”、“逃げる”を地域のなかであらかじめ役割分担しておくことが重要だと指摘。
廣井教授は、「首都直下地震で最も懸念されるのが地震火災で、その際、逃げられずに亡くなる方だけでなく、今は少子高齢化社会で物理的に移動できずに亡くなる方もいる。ただ、それも事前にどこにそうした方がいるのか知らないと助けようがない。そういう意味では、地域住民が連携して備えるのが重要。特に火災は最初の5〜10分が大事で、(火災を)見つけ、知らせることができないと話にならない。そこは連携してやってほしい」と注意を促します。
◆問われる自助・公助・共助のバランス
ここで、地域連携の参考として神奈川県・川崎市にある「モトスミ・オズ通り商店街」の取り組みを紹介。そこでは市民記者による“安全BOOK”を発行しており、地域住民や市民記者として地域の安全情報などをまとめています。また、商店街が地元の小学校や慶應大学と連携し、街中で災害等に遭遇したときの対応方法を学ぶ「街なか安全教室」を実施しています。
森澤区長は、「今の町会、商店街の人員だけではこれ以上広がるのは難しいと思うと、今関わっていない人をどう巻き込んでいくか、その仕組みを考えていくことが必要」と関係人口増加に活路を見出そうとしますが、町会の佐藤副会長からは「町会は町会費で成り立っており、そのなかで地域全体のことをやるのは限界がある」と人員に加え予算面の問題があがります。
両者の話を伺い、臨床心理士のみたらし加奈さんは、「防災はどうしても歩ける人たち、いわゆる健常者が担っている感じがするが、災害時には耳が聞こえない人たちが逃げ遅れたり、目が見えない人がサインに気づかないことがある。それをそれぞれの地域でそれら全てを担っていくのは大変で、だからこそ区でコミュニティがあれば包括できたり、お金や人手不足の問題も解決するのでは」と行政のサポートを切望。
これに対し、森澤区長は「何か起きた際、行政がそこに辿り着くまでにはどうしても時間がかかってしまう。なので、自助・共助が基本と考えるともう少し(地域で)連携できないかというところで、連携する際には助成金を増やすことは始めている」と言います。
こうした自助・公助・共助のバランスについて廣井教授は、「昔は防災も行政サービスではなかった。それが明治維新以降行政の仕事になったが、今は公助を行うにも予算がない。自助・共助に頼りたいが人口減少や少子高齢化などで隙間も増えているような状況。これからどうするか全国的な課題だが、ひとつの理想像をしがらみのない子どもが議論してもいいと思う」と提案。
国際ジャーナリストのモーリー・ロバートソンさんも「感受性が高い子どもたちが自分のこととして災害のことを考えたり、議論し合う、そういう教育の場を設けていくことも大事」と同調します。
◆地域で防災に関する連携を深めるためには?
最後に、今回の議論を踏まえ、地域防災のあり方、地域で連携を深めるための具体策について参加者が提言を発表します。
まずモーリーさんは、“リーダーシップを発揮”として、「一人ひとりが自分は今、何ができるのかを咄嗟に判断すること。そして、余裕があれば周りにいる同じように冷静さを保っている人と連携し合うこと」と有事の際の各々の対応法を語ります。さらに「日にちが経つといわゆる流言飛語が飛び交う。それを打ち消すために相殺する発信を地元が積極的に行っていくことが大事。そうしたことを含め、自分たち、当事者が主導権を握る。主役は自分、一人ひとりなんだという意識、リーダーシップを持つことが大切」と主張。
みたらしさんは8つの町会と商店街から参加者を選出した“子ども災害サミット”の開催を提唱。「大人になると組織のことや、しがらみだったり、いい意味でも悪い意味でも考えが固定化されることがあるので、そこに子どもたち発案のテーマが組み込まれることはいいと思うし、次世代を担う子どもたちにリーダーシップをとってもらうという点でもいいと思う」とその理由を述べます。
廣井教授は「防災にイノベーションを意識的に起こしてほしい」と嘆願。というのも、災害はいつ起きるかわからないだけに、災害がない期間は昔から続けている施策を続ける傾向にあり、まずはそこを変えるべきだと指摘。そのためにはみたらしさんからも挙がった子どもをはじめ、外国人など視点の違う人を引き込むことが重要で、そうすることでイノベーションも起こりやすくなるとか。「ぜひ意識的にイノベーションを起こしてほしいし、区にもそうしたマッチングを促してほしい」と訴えます。
この意見には森澤区長も賛同し、「そのなかで我々が町会と商店街の人たちとそれ以外の人たちのハブになる、そして(意見を共有する)場を作ったり、調整役になることが重要なのかなと思う」と行政の役割を示唆。
そして、戸越銀座商店街からは“ビジョンの共有”という意見が。防災イベント企画運営の鳥山あゆ美さんは、「町会と商店街で役割分担の話も出たが、それを行う上でまずはどういった姿を目指すのか、同じ街の一員だと思うので、街として同じビジョンを掲げて、それに向けた役割分担を一緒に進めていくことで連携も進むのでは」と語ります。
一方、町会側からは“戸越銀座商店街を中心としてその周辺8町会による防災協議会の設立”を提案。その上で小林町会長は、「まずは第一歩として話をして、どうなるかわからないが手始めに近隣町会の町会長に声をかけてしていきたい。今までそういう機会がなかったが、顔合わせて防災について話し合う機会が持てれば」と連携に向けて前向きな姿勢を示します。
町会の防災担当・島田郁夫さんも「今までは町会だけ守ればいいという意識が強く、商店街と何かするというところまで考えていなかったが、今後も地域の人数が増えるというところを考えると連携も絶対に必要なんじゃないかと感じた」、佐藤副会長も「防災協議会やみたらしさんの子どもサミットなど、できることから始めていき、その先に商店街のイベントを行えば、よりスムーズに(連携も)できると思う」と歩み寄ると、商店街の亀井さんからは「ぜひお願いします!」との声が。町会と商店街の新たな連携に向け、会場には拍手が巻き起こりました。
このパブリックミーティングを機に、商店街と町会が連携を進め、防災活動を展開する予定です。今後その情報も番組内でお伝えします。
<番組概要>
番組名:「堀潤激論サミット」
放送日時:毎週月~金曜 20:57~21:25 <TOKYO MX1>
無料動画配信サービス「Rチャンネル」でも同時配信
「TVer」で放送後1週間Tverにて無料配信
キャスター:堀潤(ジャーナリスト)、豊崎由里絵、田中陽南(TOKYO MX)
番組Webサイト:https://s.mxtv.jp/variety/live-junction/
番組X(旧Twitter):@livejunctionmx
番組Instagram:@livejunction_mx