国内初の飲む中絶薬「メフィーゴパック」使用条件の緩和はいつに?日本産婦人科医会会長「あと一年ぐらいかかる」

2024.10.18(金)

06:50

TOKYO MX(地上波9ch)の報道・情報生番組「堀潤激論サミット」(毎週月~金曜20:57~)。10月10日(木)の放送では、国内初の“飲む中絶薬”について、専門家を交えて議論しました。

TOKYO MX(地上波9ch)の報道・情報生番組「堀潤激論サミット」(毎週月~金曜20:57~)。10月10日(木)の放送では、国内初の“飲む中絶薬”について、専門家を交えて議論しました。

◆飲む中絶薬、使用条件緩和の方針が一転…

2023年4月に承認された国内初の飲む中絶薬「メフィーゴパック」。現在、この薬が使用可能なのは、母体保護法の指定医師が所属し、入院可能な医療機関のみ。薬局やネットでの購入は不可となっています。そして、対象は妊娠9週0日までの妊婦で、服用後は院内での待機が求められています。なお、こども家庭によると、去年5月〜10月の使用実績435件を調査したところ、重篤な合併症はなかったということです。

そんななか、厚生労働省はこの薬の投与を入院設備のない医療機関も可能と緩和の方針を示していましたが、日本産婦人科医会から使用実績がない県があることや医療機関での事務作業が膨大になること、講習の義務化・管理体制の効率化が必要となることから、無床の診療所での使用は時期尚早との指摘が。これを受け、厚労省は緩和から一転、異例の審議差し戻しを決定しました。

この一連の動向に、コラムニストの河崎環さんは「女性の間では(経口中絶薬は)非常に注目が高いなか、今回(手軽に)手に入るかもしれないと自由の光が見えた瞬間に、差し戻しになったのは失望が大きかった」と悲嘆。

株式会社トーチリレー代表の神保拓也さんも「(経口中絶薬は)身体的、精神的、経済的負担も軽減する効果が見込まれていることから、基本的には使用条件緩和の方向で進めていってほしい」と言います。

一方でこの日のゲスト、日本産婦人科医会の会長・石渡勇さんは、今回の決定はあくまで母体保護法のもとで実施されたこと、さらには諸外国と比べ日本の中絶の安全性の高さを強調しつつ、「経口中絶薬がきちんと使われるのであれば問題ないが、自由に使用できるとなるとさまざまな社会的な問題が出てくる。慎重に取り組まなければいけない」と注意を促します。

石渡会長によると現在、飲む中絶薬「メフィーゴパック」の使用実績がない県は7つ。さらには、いまだ多くの県で処方可能な医療機関が少ないそうで、「この状況で、本当に全国で安全に使われるのかはいささか疑問。ましてや国民が(薬に関する)十分な知識を持っているのかも疑問が残る」と危惧。

そして、最も懸念していることとして“薬の管理”を挙げ、「いわゆる入荷量と出荷量、実際にその医療機関でどのぐらい入手してどのぐらい使用されたかをしっかりと“突合(とつごう)”できればある程度安全だと思うが、その事務作業は膨大で、なおかつ手作業。デジタル化して管理体制を整える必要がある」と主張します。

◆WHOと日本で食い違う経口中絶薬の考え方

WHO(世界保健機関)は2005年、中絶薬を妥当な価格で広く使用されるべき薬として、インフルエンザワクチンなどと同等の「必須医薬品」に指定。そのため、欧米では人工中絶のなかでも中絶薬を使う割合が高く、とりわけ北米は9割超。イギリスやフランスではコロナ禍にオンラインの処方が可能です。そして、価格はカナダやオーストラリアでは4万円程度(日本円)ですが、国によっては全額、または一部健康保険でカバーされているところもあるそうです。

世界では広く普及しているのに対し、医療の質が高い日本でなぜ一般運用できないのか河崎さんは問いかけると、石渡会長は「海外で本当に安全に使われているかは疑問。自宅で使い、救急車で運ばれることもよくある。だからこそ医療安全体制を整えていかないといけない」と逆説的に使用後のケアの重要性を示唆。さらには、「(何かあった際に)無床診療所で対応できなければ有床の病院で対応することになるが、その連携も必要。各地域で体制を作っていく必要がある」とも。

また、石渡会長は中絶薬に関する講習会や研修会の必要性についても言及。「これは特に使用実績のない地域はやるべきで、我々もそうした準備はしていく。現在、母体保護法の指定医師制度は更新制になっているが、経口中絶薬に特化した研修会も必要」と言います。

では、どうすれば使用条件緩和は成せるのか。河崎さんが問いかけると、石渡会長は「さまざまな有害事象、副作用に関して安全だと確認できれば無床診療所での使用も問題ないと思う。(経口中絶薬を服用して)そのまま家に帰って安全かということは日本ではエビデンスがまだ出てきていない」と回答。その上で、「全国一律となると時間がかかるかもしれないが、私は(使用条件の緩和まで)あと1年ぐらいじゃないかと思う。この1年でいろいろなデータが出てくると思う」と目処を話す一方で、「ただ、母体保護法指定医師の手から離れ、自由に使われるような薬になってはならない」と警鐘を鳴らします。

丸の内の森レディースクリニックの宋美玄理事長によると、経口中絶薬でも約1割は中絶に至らず、手術が必要になるケースがあるそうです。また、服用後に大きな痛みや重度の子宮出血の可能性も。そうしたリスクがあるため、利用者が体の異変をすぐに相談できる体制が必須で、医療体制が脆弱な地域では対応が難しい恐れがあると懸念します。

神保さんからは、「今、日本で主流になっている(中絶の)外科的手術の医療報酬の平均単価は10万円ぐらいと言われているが、この中絶薬が普及すると診療報酬が劇的に下がる。そうした経済的な面も(中絶薬が)日本で普及しない側面のひとつではないか」との指摘がありましたが、これに石渡会長は「多少の影響はある。あえて否定はできないが、それが主たるものではないと思う」と返答。また、クリニック側から導入されれば経営が難しくなるといった声もあがってはいないそうです。

◆経口中絶薬の使用条件はどうあるべきか?

最後に、今回の議論を踏まえて、経口中絶薬の使用条件はどうあるべきか参加者の意見を伺います。

まず神保さんは、“配偶者同意の廃止”。「経済的インセンティブを医療機関に与えるのも大事だが、まずは配偶者同意の廃止。法的に中絶が間に合わずトイレで出産し、新生児を死なせ、女性が死体遺棄で逮捕されることがあるが、その際にパートナーは逃げ、罪に問われないことが普通に起きている。これは明らかにフェアではない。すぐに改善すべき」と主張します。

一方、元裁判官で国際弁護士の八代英輝さんは、石渡会長がこの1年で環境整備が整うと予測していたことに触れ、「(使用条件の緩和が進むには)もっとかかると思っていたので意外だった」と驚きつつ「この1年でできることとしては、積極的な情報発信、情報開示ではないか」と言います。

河崎さんはあくまで女性の自己決定権に留意し、「この問題に対して一部の女性が感情的になってしまうのは、日本の生殖医療が男性視線であると感じる人が多いからだと思う。女性の自己決定権が与えられていないと感じてしまっている現状を改善した上で、生殖医療の議論を」と切望。

そして、石渡会長は改めて突合の重要性とデジタル化を唱えた上で、「経口中絶薬が母体保護法指定医師の手から離れ、どこかで使われてしまうことが一番危険」と強調。さらには、「機械的な中絶も必要で、社会では経口中絶薬は何の不安もないと言われているが、そうではなく、機械的中絶もできる設備のなかで使われることが重要」と訴えていました。

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<番組概要>
番組名:堀潤激論サミット
放送日時:毎週月~金曜 20:57~21:25(※放送後1週間TVerにて無料配信)<TOKYO MX1>
キャスター:堀潤(ジャーナリスト)、豊崎由里絵、田中陽南(TOKYO MX)
番組Webサイト:https://s.mxtv.jp/variety/live-junction/
番組X(旧Twitter):@livejunctionmx
番組Instagram:@livejunction_mx

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