TOKYO MX(地上波9ch)朝の報道・情報生番組「堀潤モーニングFLAG」(毎週月~金曜6:59~)。「激論サミット」のコーナーでは、前参議院議員の須藤元気さんを迎えて、高額な日本の“選挙費用”について議論しました。
◆高額な選挙費用、なかでも重くのしかかる“供託金”
4月に行われた衆議院東京15区補欠選挙に出馬した須藤さんは選挙期間中、選挙にかかる費用を公開し、大きな注目を集めました。その予算は約1,500万円。その内訳は事務所開設費用に150万円、ビラやポスターなど印刷物に200~300万円、街宣車に150万円などで、これは選挙費用としてはかなり少額です。
今回、須藤さんは無所属で出馬したため、政党からの援助などは一切なく、全て自身のお金、持ち出しです。そのため陣営の選挙スタッフはほぼ100%ボランティア。選挙カーではなく自転車で本人が選挙区内を走り回り、有権者とひたすら握手をするなど、とにかくお金をかけない戦略で挑みましたが、結果は惜しくも次点でした。
ただ、須藤さんはすでに次の衆院選に向け動き始めているといい、「(選挙が)終わった後も1回も休まず電飾自転車で街を走り回っているので、そうすることでお金をかけずに戦える。選挙だからと一気にやろうとするからお金をかけざるを得ないのであって、日々政治活動をして、有権者とコミュニケーションをとっていれば、そこまでお金をかけなくても(選挙は)できるんじゃないかと思う」と実感を語ります。
須藤さんの選挙費用について、株式会社ABABA代表の久保駿貴さんは「安い」と驚く傍ら、「政治家は有権者に政策を伝えるという究極の広報活動の側面があるが、この金額を見ると(無所属で)個人で挑戦するにはかなりのハードルがある」と印象を語ります。
選挙費用のなかで、とりわけ高額なのが“供託金”です。これは、立候補者が一時的に法務局に預けるお金で、売名目的の候補乱立や選挙妨害の立候補を防ぐのが本来の目的です。一定の得票数を満たした場合には返却されますが、規定の得票数に達しなかった場合には没収。また、選挙ごとに金額は変動し、衆院や参院では選挙区が300万円、比例区が600万円。知事選は300万円、都道府県議選は60万円となっています。そして、供託金の問題点としては、新規参入者の大きな障壁となることや、貯蓄が多くない若者が政治から遠のいてしまうといったような事象が挙げられています。
経済ジャーナリストの荻原博子さんは供託金について、「ゼロにしてしまうと大勢の人が立候補できるが、有権者が誰を選んでいいのかわからなくなってしまう懸念があると思う。しかも、最近は(立候補者を)乱立させ、選挙で儲けようとする動きもある。そうしたことも考えると、ハードルは高いかもしれないが仕方がないとも思う」と肯定的な姿勢を示します。
一方、須藤さんは「供託金は、日本が世界で一番高いと言われていて、数万円の国もあるなか、僕はその存在は憲法44条(『両議院の議員及びその選挙人の資格は、法律でこれを定める。但し、人種、信条、性別、社会的身分、門地、教育、財産又は収入によって差別してはならない』)に矛盾していると思う。お金がないから選挙に出られないというのはおかしい」と真っ向から否定。
また、「今、勤労者の約4割が年収300万円で、(選挙の)スタートに立つために300万円かかるとなると政治は身近なものにならない。また、女性の政治進出に関しても女性は約4割が年収200万円以下ということを考えると、クオータ制などの議論もあるが進んでいかないと思う」と高額な供託金の弊害を指摘します。
元裁判官で国際弁護士の八代英輝さんも「一定の票数を獲得すれば戻ってくるとはいえ、(供託金を準備することが)プレッシャーになることは間違いない。泡沫候補だったときに一定のペナルティはあり得るかもしれないが、予納させなくてもいいのではないか」と自身の見解を示します。
さらには久保さんも「金額が高すぎると思うし、(立候補者の)乱立を防ぐという目的であれば、今の一般人の収入から考えるともっと低い設定でも抑止になると思う」と否定的。
なお、G7で供託金制度を設けているのは日本とイギリスのみ。アメリカ、イタリア、フランス、カナダ、ドイツには供託金はありません。カナダは2017年に裁判所の違憲判決を受け、この制度を廃止。ドイツはお金ではなく、有権者らの一定数の署名を定める制度があります。そして、唯一供託金制度を導入しているイギリスもその金額は下院で500ポンド(日本円で約9.6万円)と安く、日本の供託金は著しく高額です。
◆有権者も意識改革を…議員が本来やるべきことは?
他にも選挙対策で大きな出費となるものはあります。3月の政治倫理審査会で自民党の西田昌司参議院議員は、地元の会合にいけば時に懇親会があり、その会費はおおよそ1万円。毎日1件あれば年間360万円で、1日複数回あることもしばしばで、その費用だけで年間500~600万円かかると発言しています。なお、もしも懇親会を断った場合、悪評が広がり支持を失う懸念もあり、こうした出費は止むを得ないそうです。
須藤さん自身は、参院選は比例区で出馬し、支援団体などがなかったため会費を払うパーティーや懇親会に出席することはあまりなかったそうですが、周囲の議員に話を聞くと、やはりそうした機会は多いとか。選挙区によって異なりますが、それこそ新年会も1日10件当たり前というところもあるそう。ただ、そうした議員は政党に所属し、自分でもパーティーを行うなどしており、十分な予算はあると須藤さんは言います。
そして、須藤さんは無所属にこだわる理由、さらには今後について、「結局、無所属だと本会議で発言できなかったり、政見放送がなかったりして、今はどうしても政党に入らなければいけないような形になっている。そうではなく、政党に関わらなくても、志がある人が政治をできるような形を作っていきたい」と語ります。
八代さんは、西田議員の発言から地元民の意識改革の必要性に言及。というのも、国会議員が懇親会やお祭りなど地元の行事に顔を出す=地元のことを考えている、偉いという古い評価・慣例がまだまだ残っているから。「お祭りに顔を出させる地元民の意識を我々は変えないといけない。議員にはもっとしっかり政策立案の時間を作ってほしいし、そのためには地元から解放してあげないといけない」と注意を促します。
◆よりよい民主主義のために選挙費用はどうあるべきか?
最後に、よりよい民主主義のために選挙費用はどうあるべきか、議論の参加者がそれぞれ提言を発表します。
久保さんは、“メディアの平等性・サポート”。「NHKには議論するような番組があるが、他でも選挙に出られている方に議論する機会を提供したり、例えば、時間を決めて全チャンネルでそれを同時に放送すれば、国民の選挙に対する意識も変わり、選挙の平等性も担保されるのではないか」と訴えます。
荻原さんは“専用クラウドファウンディング”。「寄付をした人の名前、そして理由も書けるようにすれば納得感が出る。そうしたものを作ればいい」と望みます。
八代さんは、職選挙法の改正、“上限規制(キャップ制)”を挙げ「いろいろ規制は設けられているが、現代のネット環境にそぐわないものが多いので、政党に所属している人が有利にならないよう平等に改正することが必要」と主張。
一方、須藤さんは“選挙費用は元気でカバー”。「お金ではなくパワーで行くしかない」と語り、「選挙カーも使わず、自転車で選挙活動ができないようであれば、もはや次の世代に譲るべき。そうすればお金もかからないし、政治の世代交代もできると思う」との発言に、周囲から拍手が巻き起こります。
そして、キャスターの堀潤は「政党法をきちんと議論し、憲法と同じく、議員は個人として尊重されることを明記し、政党を整理したらどうか」と提案していました。
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<番組概要>
番組名:堀潤モーニングFLAG
放送日時:毎週月~金曜 6:59~8:30
キャスター:堀潤(ジャーナリスト)、豊崎由里絵、田中陽南(TOKYO MX)
番組Webサイト:https://s.mxtv.jp/variety/morning_flag/
番組X(旧Twitter):@morning_flag
番組Instagram:@morning_flag
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