東京都内の児童相談所に寄せられた児童虐待やひきこもりといった「子どもに関する相談」は、2013年度は5414件でしたが、2022年度には2万7798件へと5倍以上に増えています。増加する相談件数に対応するため、東京都は練馬区に6月、33年ぶりに新たな児童相談所を設置しました。相談に迅速に対応するため、施設では新たな試みもスタートさせています。

練馬駅近くに東京都が6月1日に開設したのは「練馬児童相談所」です。都が運営する児童相談所が新たにできるのは1991年以来33年ぶりのことです。およそ40人の児童福祉司を含む合わせて80人ほどで練馬区一帯の子育て家庭の問題に対応します。地域の福祉を担う新たな拠点について、練馬区民からは「(練馬区は)子どもを持つ家庭もたくさんあるので、そういった施設があるのは大事だと思う」「利用することを考えたらあった方が安心。うちも利用するかもしれないので」と、新施設に期待の声も聞かれました。
都が33年ぶりに設置した背景には、近年の家庭環境の変化があります。厚生労働省の調査によりますと児童相談所への相談件数は増加傾向にあり、2022年度までの9年間で5倍以上に増えています。東京都の担当者は増加の理由として、児童虐待に対する意識の高まりやスマートフォンなど相談できるツールの普及が挙げられると分析しています。
増える相談件数に迅速に対応するため、練馬児童相談所では今までにはなかった“新たな試み”も行っています。この児童相談所の大きな特徴は「子ども家庭支援センター」と同じ建物にあることです。子ども家庭支援センターは区市町村が親からの相談を受け付けたり子どもの一時預かりなどに応じる施設で、新たな児童相談所はこの施設が入る同じ建物に設置されました。練馬児童相談所の野田忠所長は「東京都で初めて子ども家庭支援センターと同じ建物の中に設置することになって、より迅速な対応を図ることができると考えている。虐待通報が入った場合には合同の緊急受理会議を実施するなど、対応方針の協議などができると思う」と話します。2つの施設は今後、児童虐待などにつながる恐れがある事案に対して会議などで毎日情報を共有し、地域の家庭問題を早期に発見することを目指すということです。
<「児相」の設置 過去には反対の声も…>
練馬区に新設した児童相談所以外にも、増加する相談件数に対応するため、東京都は今後も児童相談所の整備を進めていく方針です。2025年には町田児童相談所、2029年には三鷹市周辺の4市を管轄する多摩中部児童相談所、2031年には福生市周辺の8市町村を管轄する西多摩児童相談所を新設します。また区立の児童相談所も今後4カ所新設される予定です。
子育て家庭の問題に迅速に対応できる体制を整えるため、増設が求められる児童相談所ですが、その一方で過去には児童相談所の設置が地元住民から反対されるケースもありました。2021年に港区南青山に整備された「港区児童相談所」は事前の住民説明会で「青山の1500坪ある一等地でなぜ運営しなければいけないのか」「施設に入った子どもが外に出て着飾った人々や景色を見た時に、そのギャップをどう感じるのか心配」といった反対の声が一部の住民から上がりました。あれから3年がたち、現在の港区児童相談所を取材しました。
港区児童相談所・児童相談課の中島由美子課長は、地域の人に施設が受け入れられた理由を「児童相談所の内容や取り組みを知ってもらえるよう努めたため」としていて「オープンにできない部分が多くある児童相談所だからこそ、地域の住民への丁寧な説明が大事」と話しています。