5年前、池袋で起きた暴走事故で妻と娘を失った松永拓也さん(37)が5月29日、服役中の飯塚幸三受刑者(92)と初めて面会しました。松永さんは面会の際、飯塚受刑者に対して伝えた内容を明かしています。

松永さんは会見で「僕も自分の妻と娘を亡くしたので、あなたのことを許せる日が来るかは分からない。許せないかもしれない。だけど、あなたのことを認めることはできるかもしれない。だからあなたを認めて、再発防止につなげるためにきょう面会させてもらった。こうやって会ってくれたことそのものに感謝していると、改めて伝えました」と語りました。
受刑者に対して“感謝”を伝えたという松永さんがこの感情に至るまでにはどんな葛藤があったのでしょうか。取材しました。
2019年4月、松永拓也さんは東京・豊島区東池袋で起きた暴走事故で、妻の真菜さん(当時31)と娘の莉子ちゃん(当時3)を失いました。車を運転していた飯塚幸三受刑者は裁判で一貫して無罪を主張しましたが、東京地裁は飯塚受刑者の過失を認め、禁錮5年の実刑が確定しています。
裁判では「心を鬼にして闘った」という松永さんでしたが、裁判後、飯塚受刑者に対する感情に変化があったといいます。松永さんは今年3月のTOKYO MXの取材で「もう彼に対する怒りとか憎しみというのはそんなに別になくて、彼に伝えたいのは『同じ視点を持ちたい』ということ」と語りました。
松永さんは遺族の心情を受刑者に伝える制度を利用して「事故根絶のために話し合いたい」と面会の希望を伝えると、4月、応じる意思を示す返答を受け取りました。これについて松永さんは「私は被害者遺族にしかなったことがないし、加害者になったことがない。同じ事故だが、彼(飯塚受刑者)は過失で加害者になってしまった。その経験をどちらの立場からも発信することが、きっと未来の交通事故防止に役立つ。そういう意味で、面会も対談もしたい」と語っていました。
そして迎えた面会の日。車いすで面会室に現れたという飯塚受刑者と約50分にわたり、言葉を交わしました。面会を終えた松永さんは「本当に想像していたよりもかなりお年を召されています。何とか私の質問に対して、イエス・ノーで答えられる範囲では回答できていた」と語りました。そして「再発防止の観点から、世の中の高齢者やそのご家族にお伝えしたいことはありますかという質問をしました。これに関しては『早く免許を返すように伝えてください』と言っていました。これはご自身の言葉で話していました」と語りました。
松永さんは「この面会が再発防止のための集大成だととらえている」として、「彼の言葉をヒントにして、同じような加害者、被害者や遺族を生まないためには、自分たち一人一人に何ができるかをぜひ考えていただきたい」と思いを語りました。
<「集大成」松永さんと飯塚受刑者が初面会>
松永さんは今回の面会について「集大成」という言葉で表したのが非常に印象的でしたが、どんな思いで言ったのでしょうか。取材した山田記者によると、松永さんは面会を終えた夜、仏壇に手を合わせて真菜さんと莉子ちゃんに「今回の事故で再発防止に向けて自分にできることはやり切れたんじゃないかな」と報告したと話していました。
また、面会後の取材で松永さんに“ある変化”がありました。それは、これまで何度も松永さんにお話を聞かせていただく中で、飯塚受刑者のことを「飯塚氏」や「彼」と呼んでいたのが、面会後の取材時、初めて「飯塚さん」と呼んだのです。松永さんも無意識に「飯塚さん」と呼んでいたということで、「再発防止のために同じ視点を持つという意味で、心理的な距離が縮まっているのかもしれない」と振り返っていました。
ただ、これで終わりということではなく、松永さんは今後も飯塚受刑者と面会を重ね、出所後は対談も行いたいと、交通事故防止のために活動していきたいとしています。