“災害関連死”を防ぐには?衛生環境、精神的ストレス…福島医大教授と徹底議論

2024.03.15(金)

06:50

TOKYO MX(地上波9ch)朝の報道・情報生番組「堀潤モーニングFLAG」(毎週月~金曜6:59~)。「激論サミット」のコーナーでは、能登半島地震における“災害関連死”について専門家を交えて議論しました。

TOKYO MX(地上波9ch)朝の報道・情報生番組「堀潤モーニングFLAG」(毎週月~金曜6:59~)。「激論サミット」のコーナーでは、能登半島地震における“災害関連死”について専門家を交えて議論しました。

◆今後懸念される“災害関連死”

能登半島地震の発生で、未だ多くの方が避難生活を送る石川県で今後懸念されるのは、災害による負傷の悪化や避難生活中の負担などで命を落とす“災害関連死”です。これは阪神淡路大震災を機に生まれた概念で、東日本大震災や熊本地震など、これまでに5,000人以上が認定。

熊本地震では直接死に比べ4倍もの人が災害関連死で亡くなっており、その要因は避難所の衛生環境やベッドなどの設備、食事や精神的ストレスなどさまざまです。トイレの衛生環境が悪いだけで、肺炎につながる可能性もあるといいます。今回は“災害関連死”を防ぐにはどうすべきか、専門家とともに知恵を出し合い考えます。

今回、リモートで議論に参加した福島県立医科大学の坪倉正治教授は、東日本大震災で医師として活動し、その後、福島県・南相馬市の災害関連死について10年に渡り調査・研究してきました。

今回の能登半島地震について、坪倉教授は「災害は建物の倒壊や津波など直接的な被害もあるが、(災害)関連死など二次的な影響が全くばかにならない」と危惧。そして、「状況的には(東日本大震災のときと)同じようなことが起こり得ると思うので、しっかりと対策をしていく必要がある」と留意します。

フリーキャスターの伊藤聡子さんは、高齢者が多く、寒さも厳しいなか、ライフラインの復旧に時間がかかっていることで、高齢者の方にとっては寒い中被災地に居続けることが健康上のリスクになると懸念を示します。

NPO法人「あなたのいばしょ」理事長の大空幸星さんは、発災以降、課題が多すぎて行政が災害関連死にまで手が回らない状況を案じ、「こうしたときにどうするかは国を含め議論すべきで、避難所のガイドラインも改訂すべきところがあるだろうし、精神的なストレスを起因とするさまざまな疾患を予防するリソースも不足している。そうしたことを事前に定めておくべき」と主張。

また、能登地方は超高齢化地域であることも大きな問題です。坪倉教授は、「大切なのは介護や医療などの連続性をいかに担保するか。避難所で看護師や介護士など対応する人が変わらざるを得ないなか、連続性のある対応は難しいところで、そこの取り組みはより進めていく必要がある」と訴えます。

◆避難所の環境も災害関連死の大きな要因に

熊本地震では、直接死50人に対し災害関連死は221人。その死因は、呼吸器系と循環器系の病気が30%近くで、内因性の急死・突然死が13.3%。次いで自殺が8,7%となっています。そして、死亡までの期間は1週間以内が53人。1ヵ月以内が71人。3ヵ月以内が53人となっています。

このデータに対し、坪倉教授は「災害関連死は半年後、1年後など中長期に渡って問題となる」と指摘しつつ、「ただ、定義自体は災害ごとに変わっている。例えば、新潟県中越地震のときは(発災後)3ヵ月以降は基本的に(災害関連死と)認めていない。東日本(大震災)から徐々に認められるようになってきている状況で、さらに亡くなった方がいても家族が申請しないと基本的に認定されない。なので、1人暮らし・独居の方などは見逃されている」と問題点を提示します。

また、災害関連死は避難所の生活環境に起因することも多々あります。災害分析の専門家、関西大学の奥村与志弘教授の研究室が作成したフローチャートを見ると、例えば、水が不足すると劣悪なトイレ環境になり、そうすると避難者は排泄回数を減少させようと水分の摂取を控え、それがやがて脱水症状を誘発。さらには、口腔内の細菌が増加し、誤えん性肺炎につながることも。

避難所の環境整備がままならなければ、選択肢として2次避難も考えられますが、「The HEADLINE」編集長の石田健さんはその際の問題点に言及。先日、東海地方の自治体関係者から聞いた話として、震災避難者を受け入れる自治体が少なく、その理由が自治体同士の横のつながりがないことを挙げていたことに触れ、「どう連携をとっていいのかわからないという話が出ていた。当然各地で避難所の環境を整備することも大事だが、緊急時の行政のあり方は日頃から議論、確認していく必要がある」と石田さんは言います。

被災した石川・七尾市の避難所を取材してみると、学校の体育館にテントを張り、世帯ごとに生活していました。避難者からはトイレやお風呂などの問題、さらには多くの人が寝泊まりしているとあって、ストレスも増加。加えて、ノロウイルスや新型コロナといった感染症の発生事例もありました。

そうした厳しい状況に、坪倉教授は現場の方々を労いつつ「今後も中長期的な長い戦いになると思うので、そこでどうやって(健康やメンタルを)保っていくかももっとみんなで考えていかないといけない」と危機感を募らせます。

◆災害関連死が最も多い発生場所は避難所ではなく…

大空さんはさらなる課題として、被災者を支援する方々の支援を挙げます。被災者をケアする介護士や医療従事者のなかにも被災している方がいるものの、そんな彼らに対するケアができていないことを苦慮。「支援者支援のあり方がどこまで議論されているのか」と問題提起。

避難所は多くの人が生活しているため、人の目が行き届き、リスクに気づきやすいというメリットがある一方で、被災後も自宅で暮らしている人は家族以外の目がなく、1人暮らしであればそれも皆無で、「そうしたところにもどうやって支援者が入り込んでいくかが今見えてきている課題」と大空さんは指摘します。

実際、災害関連死は避難所だけでなくあらゆる場所で発生しています。熊本地震と東日本大震災では避難所が約2割で、最も多いのが自宅や車中泊で約4~5割。そして、高齢者施設や病院が約3割でした。馳浩石川県知事は「見守り活動をしながら支援の提供につなげたい。把握は災害関連死を防ぐ上でも必要」とコメントしています。

そうしたなか、石川・輪島市ではピーク時の避難者は1万2,000人超、人口の半分以上に相当しましたが、まずは避難所の過密状況の改善を目指して、県と連携して2次避難を推奨。坂口茂市長は「被害のないところで健康を守っていただくことを薦めた。市民からは『輪島市外に出ていけということか』と言われたこともあったが、まずは命・健康ということで(2次避難を促し)、そうすると避難所に残る方の状況にもゆとりができ、仕切りなどの対応もできる」と話します。

また、石川県・珠洲市では災害対策本部内に「保健医療福祉調整本部」を立ち上げ、避難所だけでなく自宅避難や車中泊の人への支援、巡回訪問を実施。泉谷満寿裕市長は「避難生活のなかで体調を壊すことのないよう今後も取り組んでいきたい」と述べています。

2月2日時点で石川県の避難者は1万4,431人。うち1次避難者は8,996人。2次避難者は5,178人と全体の約36%。2次避難場所はホテルなど3万人分用意しているものの、7割以上が県外施設で、住民からは住み慣れた町を離れることへのためらいや行き先の希望が通らないなど不安の声もあるそうで、石田さんは「(自治体ごとではなく)国全体での対応としてもっとできることがある。日本は災害大国であるにもかかわらず、そうした議論が進んでいないことも課題だと思う」と話します。

◆災害関連死を防ぐためには?

最後に、今回の議論を踏まえ「災害関連死を防ぐための具体策」をコメンテーター陣が発表。伊藤さんは「今後は広域連携が大前提」とし、「それは市民も考えておかなければいけない」と言います。また、医療・介護に関する個人データもどこの地域でも確認できる体制づくりを切望。マイナンバーなどによる連携を求めます。

石田さんは災害関連死を防ぐ肝として2次避難を挙げ、それをスムーズに促すためにも“2次避難を想定した自治体間の連携”を主張。そして、自治体のみならずそれを一般の市民も周知する必要があるとも。

大空さんは“支援者支援”の重要性を改めて強調しつつ、災害時にさまざまなシステムがダウンしてしまった際の対策、指揮系統など事前に策定しておくことを訴え、「最後はアナログで対応することも考えておかなければいけない」と注意を促します。

坪倉教授は「民間の支援が大事」と言います。大切なのは介護や看護の連続性で、それは国の機関やDMAT(災害派遣医療チーム)などよりも民間やNPOなど小規模のもののほうが、融通が効くとし「そうしたものを国や県、行政がもっと支援する構造にならなければいけない」と指摘。

最後にキャスターの堀潤は“能登半島に復興庁”と提案。「東日本大震災の際も民間が復興庁で活躍してきた」と復興庁の活躍に期待していました。

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<番組概要>
番組名:堀潤モーニングFLAG
放送日時:毎週月~金曜 6:59~8:30 「エムキャス」でも同時配信
キャスター:堀潤(ジャーナリスト)、豊崎由里絵、田中陽南(TOKYO MX)
番組Webサイト:https://s.mxtv.jp/variety/morning_flag/
番組X(旧Twitter):@morning_flag
番組Instagram:@morning_flag

 

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