円安、低賃金で増加する海外への人材流出…どう防ぐ?識者の多彩な意見

2023.11.17(金)

06:50

TOKYO MX(地上波9ch)朝の報道・情報生番組「堀潤モーニングFLAG」(毎週月~金曜6:59~)。「激論サミット」のコーナーでは、近年急激に増加する海外への“人材流出”について、経済評論家の加谷珪一さんを交えて議論しました。

TOKYO MX(地上波9ch)朝の報道・情報生番組「堀潤モーニングFLAG」(毎週月~金曜6:59~)。「激論サミット」のコーナーでは、近年急激に増加する海外への“人材流出”について、経済評論家の加谷珪一さんを交えて議論しました。

◆海外永住者数が過去最高、年々増加傾向に

昨今、円相場が一時1ドル=150円台まで円安が進むなど国内経済が不安定ななか、今、日本では“人材の海外流出”が起きています。事実、昨年10月には生活の拠点を日本から海外に移した永住者の数は、過去最高の55万7,000人超えを記録。円安、さらには日本の“低すぎる労働賃金”が海外への人材流出に拍車をかけているとの指摘もあります。

55万人を超える日本人の海外永住者数に、経済評論家の加谷珪一さんは、「(海外)永住者はじわじわと増えていたが、ここ数年は急激に伸びている」と指摘。その理由について「統計だけだとわからないが、国際結婚が増えたり、海外で就職して住もうと思う方が増えているのは間違いない。(国際)結婚を決断する背景を含めると、やはり賃金なのかなと思う。日本だと稼げないので海外に活路を求める人が増えてきている」と推察。

外務省が発表している最新の「海外在留邦人数推計推移」を見ると、2022年10月1日の時点で海外永住者は過去最高の55万7,034人。コロナ禍を経て、より良い生活や仕事を海外に求めた永住者が前年よりも約2万人増。永住者数は20年連続で増加しており、10年前に比べて14万人以上増えています。

一方、収入面では日本の最低賃金は平均1,004円とアメリカやオーストラリアの約半額。平均年収に至っては約470万円で、円安の影響も少なからずあるもののG7の中では最下位。物価が上がるも賃金が上がらない日本の現状が浮き彫りに。

大学生でFridays For Future Tokyoオーガナイザーの黒部睦さんは、周囲でも社会に出る就職のタイミングで海外に行こうと考えている人が多いそうで、「(海外のほうが稼げるという)賃金の面もあるし、不安が多いと自己肯定感も下がっていく。海外に行ったほうが、心が楽になるからという理由で(海外に)行く人も多い」と言います。

こうした状況に陥った理由について、キャスターの堀潤は「(国民)みんなが手を抜いていたわけでもないのに、何故こうなっているかといえば、やはり政策が間違っていたんじゃないかと思う」と指摘。

加谷さんは、賃金が上がらない背景を説明。「賃金は企業が生み出す付加価値に比例するので、企業が付加価値を上げていかないと(賃金は)上がりようがない。そして、なぜ30年も企業の付加価値が上がらないかといえば、企業経営に問題があるかもしれないし、政策に問題があるかもしれない。いずれにせよ、諸外国と比較すると日本の企業の稼ぎが少なくなっているので低賃金にならざるを得ない」と解説します。

さらには、「1990年代以降、全世界はグローバル化とIT化が急激に進んだが、日本企業はこの2つに乗り遅れた。かつ、女性の積極的な登用など人材面でもいろいろ見劣りがする。今、業績を伸ばすために必要なことの多くが、日本企業は十分にできていない」と日本の弱い部分を指摘。

また、政策に関しても「本来であれば、企業の改革を促していく政策が必要だったが、政府は財政、金融など側面支援ばかりしてしまい、本質的なことを見失っていた印象がある」と加谷さん。

国際ジャーナリストのモーリー・ロバートソンさんは、日本の状況を「“淘汰すべきを淘汰せず”というのが大きな宿痾となっている」と分析。日本の多くの企業において、上の世代がダイバーシティ(多様性)、グローバライズ(国際化)、DX(デジタルトランスフォーメーション)に見向きもせずに居座り、さらには「マーケットがそういう人物を懲罰的に退場させようとしない」と日本の悪しき風習を嘆きます。

◆オーストラリアで労働…毎月40万円以上の貯金が可能?

では、海外での生活はどうなのか。今回は4年前に海外で働きながら休暇を過ごせる「ワーキングホリデー制度」を使ってオーストラリアに渡り、現在も現地で働く、しょなるさん(33歳)を取材しました。

まずは、海外に渡った経緯について「最初は“出稼ぎ”という感覚ではなく、淡々と同じような生活をするのではなく、何かやってみたいなと思ったのが一番のきっかけ」としょなるさん。現在は日本で工場勤務していた経験を活かして、金属の部品加工に従事し、その月収はなんと約90万円。日本で働いていた頃は手取り約25万円でしたが、現在の手取り額はおよそ80万円で3倍以上になっています。

何故、オーストラリアではそんなにも稼げるのか。その理由を聞いてみると、「最低賃金が毎年1ドルくらい上がるので、同時に給料も上がっていく。今の時給は2,000円を超えていると思う」としょなるさん。さらに、オーストラリアでは1日8時間以上働くとそれ以降の時給が1.5倍、土曜日に働くと2倍になる“ダブルペイ制度”があり、しょなるさんは土曜日も働いているため賃金が倍増。最終的に「日本より1.5倍程度生活費がかかるかもしれないが、毎月40万円以上は貯金できている。日本に戻ったら日本一周したい」と話していました。

堀は「海外で稼いだものが(帰国して)日本で還元されるのであれば、みんなが生き生きとしているのであれば(海外で働くのも)良いとも思う。海外出稼ぎは(人材の)流出なのか?」と投げかけます。

加谷さんは「永住する方以外はいずれ日本に戻ってくる。また、(国内外で)人の行き来があればビジネス上、経済上は良い効果があるので必ずしも悪いことではないと思う」とメリットを語る一方で、「ただし、(日本の)賃金が安いので海外で働くということが恒常的になり、海外に向かう人が年々増えていく状況は良くない」と危惧。

また、モーリーさんは「途上国型の経済で“レミタンス”、つまり海外からの送金で家族を養っていることがあるが、日本もそのパターンに陥る可能性はないのか?」と案じると、加谷さんは「このままだとその可能性はあるので、そうならないように考えていかないといけない」と危機感を募らせます。

日本の賃金が上がらない理由について、タレントのREINAさんは「雇用の流動性が低すぎる」とした上で「アメリカで賃金が上がるのは転職をし続けているから。3~4年働き、(転職する際には)必ず交渉して10~20%の給料アップを目指すので給料アップの機会が積極的に見つけることができるが、日本は転職率が低く、なおかつ労働者側に交渉力がない。これでは厳しい」と日本経済の脆弱さを憂慮。

◆日本経済を停滞させた背景…企業、政府の責任は?

日本人が海外に流出するとともにもうひとつ、日本が海外の労働者から選ばれなくなってきているという問題もあります。現在、日本国内で働く外国人は約170万人いますが、円の価値が大幅に下落したことで稼ぎが減り、本国に送金する金額も少なくなり、彼らが日本で働くメリットが希薄に。これが加速すれば、特に外国人労働者比率の高い小売・建設・製造・医療福祉などの業界では、今後外国人労働者が日本から離れることで、人手不足の問題が深刻化する恐れがあります。

では、どうすれば外国人労働者が戻ってくるのか。円高になれば解決するのか、加谷さんに聞いてみると、「これはもはや為替の話ではなくなりつつある。本来であれば、日本企業は人手不足をデジタル化や省力化、機械化などをして生産性を上げることで、対応していかないといけないが、過去20年間、日本の企業は安易に低賃金の労働者を雇い、企業努力をしてこなかった。その結果が今に至り、そうした日本企業の体質が変わらないと、外国人から見て魅力的な職場にはならない」と問題点を示唆。

また、日本企業がなぜ企業努力を怠ったのかといえば、「日本は生活も安定していて住みやすく、本来経営者はアグレッシブであるべきところ、現状維持、自分の在任期間中は難なく過ごせばいいと全体がそうなってしまった」と加谷さん。

モーリーさんも、ある特定の世代は国際情勢など関係なく、他国で何が起きていようが日本のことしか考えていなかったと批判しつつ、「それに対して圧迫・被害を受けるのは若者。彼らと低賃金の外国人がこれから格差のもと生贄にされ、それに対して反乱が起きると思う。例えば、若者の投票率が8割以上になれば勢いが生まれるかもしれない」と若者の蜂起を予想。さらには、年齢に関係なく能力のある日本人もこのままでは国外へと流出する可能性が大いにあると案じます。

ここでREINAさんからは、「優秀な人材が大量に海外に行ってしまうのは問題だと思うが、海外の会社が高い賃金を払って日本の優秀な人材を獲得すれば、日本の企業もどこかのタイミングで賃金を上げないと採用競争力として成立しない。それはいいことになるのではないか?」との疑問が。すると、加谷さんは「いい効果をもたらす面はすごくあると思う」とポジティブな一面を挙げる一方で、「それが進むと、グローバル企業などは賃上げができるのでいいが、(賃上げが)できる企業とできない企業の格差が大きくなり、分断が起きてしまう可能性がある」と懸念。

総じて堀は、「(政府が)企業にいろいろな補助をつけ、温存させてきたから停滞が生まれてきたのではという論があれば、そこを切り捨てた途端に日本の産業の屋台骨が壊れてしまったり、そうした部分が支えているものがあったり、さまざまなジレンマがある」と日本の方向性に苦悶していましたが、加谷さんは「健全な競争があれば、結果的に淘汰され、流動性が高まる。一部の論者は(従業員の)首をきればいい、会社を潰せばいいと言うが、それは順序が逆」と指摘。

「適切な競争環境さえあれば自動的に企業は淘汰され、いい企業はいい賃金を払うようになり、多くの人がそこに転職するようになる。それさえやれば上手くいく」と自身の見解を示します。

◆日本をもっと魅力的な労働市場にしていくためには?

今回の議論を踏まえ、日本をもっと魅力的な労働市場にしていくにはどうしたらいいか。加谷さんが重視するのは“賃金”。「やはり給料は大事で、給料がいい会社は労働環境もいい。企業経営をちゃんと行い、魅力的な会社にすることを一丸となってやっていくべき」と主張。

さらには、「海外では大企業も中小企業も利益率はほぼ変わらないのに、日本だけが中小零細企業の利益率が低い。本来であれば大中小関係ない、そのマインドセットが必要」と話します。

黒部さんは「“賃金が上がらなくても住んでいられる環境”。小さいコミュニティとかをたくさん作っていく切り口があってもいいと思う」の新たな提案を打ち出します。

REINAさんは「住みやすさで差別化」とまた別角度からの解決案を提示。賃金の問題は大きいものの、「(日本は)他国との差別化という意味では、住みやすさで勝てると思うし、もっと追求すべき」と訴えます。

というのも、REINAさん自身、アメリカで暮らしていたときと比較すると、日本は安心・安全で、メンタルコスト、ストレスもかからず、それは思いのほか大きいとし「これはお金に変えられない。よりブラッシュアップしていくべき。子育て環境などもう少し強化できるんじゃないか」とより一層の向上を熱望。

モーリーさんは「日本は変化そのものへのアレルギーが強すぎる、リスクや不平等さへの不寛容が向いて逆転しているので、もう少し競争原理+恩恵を受ける人に格差が出るがみんなギラギラする、そういうマーケット設定にしてほしい」と日本人の習性、価値観の変化を望みます。

そして、最後に堀は「もっと(海外に)流出すればいい」と全く逆の意見を提示。「流出することで個人の才能が開花・発揮され、その後、ルーツ(日本)に戻ってきてもらえればいいし、あとは(海外の)どこに行っても日本人は日本人で変わらない。流出しても個を大事にしてもらえればいいんじゃないか」と話していました。

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<番組概要>
番組名:堀潤モーニングFLAG
放送日時:毎週月~金曜 6:59~8:30 「エムキャス」でも同時配信
キャスター:堀潤(ジャーナリスト)、豊崎由里絵、田中陽南(TOKYO MX)
番組Webサイト:https://s.mxtv.jp/variety/morning_flag/
番組X(旧Twitter):@morning_flag
番組Instagram:@morning_flag

 

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