部下が上司を選べる「上司選択制度」はあり?令和の新制度で職場環境が改善する?

2023.10.30(月)

06:50

TOKYO MX(地上波9ch)朝の報道・情報生番組「堀潤モーニングFLAG」(毎週月~金曜6:59~)。「激論サミット」のコーナーでは、働き方改革が進むなか、ある企業が導入した新たな制度“上司選択制”について議論しました。

TOKYO MX(地上波9ch)朝の報道・情報生番組「堀潤モーニングFLAG」(毎週月~金曜6:59~)。「激論サミット」のコーナーでは、働き方改革が進むなか、ある企業が導入した新たな制度“上司選択制”について議論しました。

◆部下が上司を選べる制度を札幌の企業が導入

人口減少による働き手不足が加速し、近年「働き方改革」が進められるなか、北海道・札幌市の「さくら構造」は、部下が上司を選んで人事異動を行う「上司選択制度」を導入。代表取締役社長・田中真一さんは、上司とウマが合わなかっただけで辞めていく社員を鑑み、この制度を導入したと話しますが、結果として上司との関係性だけでなく、仕事のミスマッチが減り、離職率が大幅に減少したそうです。

これに対し、専門家の龍谷大学心理学部・水口政人教授は「一番のメリットは自分で選べないとされていた上司に自分の意思決定が反映できる。自分で選択をする余地があるのは、仕事へのコミットメント(関与)、組織のエンゲージメント(結びつき)において非常に有益」と評価。

その一方で、「本来伝えるべきことを躊躇してしまうケースも出てくるかもしれない。全ての会社でうまくいくとは限らない」とデメリットも示唆。

なお、民間の調査では「上司が理由で辞めたい」と思ったことがある人は、約8割。

果たして、上司選択制度は働き手不足解消の救世主となるのか。メリットとデメリット、どちらが多いか尋ねてみると、哲学者で津田塾大学教授の萱野稔人さんとはキャスターの堀潤は「メリットが多い」。株式会社POTETO Media代表取締役の古井康介さんは悩んだ挙句に「デメリットが多い」。コラムニストの河崎環さんは「デメリットしかない」と断言します。

◆上司選択制のメリット・デメリット

「メリットが多い」とした萱野さんは、導入事例であるさくら構造での“離職率の大幅減”という結果を大いに評価。また、部下が上司を選ぶことで「その選択に責任が持てるようになる」と話します。自分で選ぶことで当事者性の向上、やらされている感覚もなくなるとし「それが生産性を上げる大きな要素のひとつになる」と見解を示します。

一方、「デメリットが多い」とした古井さんは、萱野さんの見解を理解するも「上司が嫌であれば(その会社を)辞めればいい。優秀である人ほど(会社を)選べている」と明言。そして、デメリットが多い理由として「やはり配置や人事権は、会社を経営していく上で上司が持っていたほうがいい。最適配置がある」と主張します。

「デメリットしかない」とする河崎さんは「専門性の高い職人の世界における徒弟制度であればいいが、普通の企業で導入すると未熟な価値観に基づいたただの“人気投票”になってしまう。それで生産性は上がるのか」と危惧します。

対して、「メリットが多い」とした堀は、家電量販店「ノジマ」の野島代表取締役社長が社員に徹底している「人は使うものではない」という言葉を掲げ、「萱野さんの言うように当事者意識を持って機能する組織を作るべきで、上司と部下だけの会社であれば心配だが、経営者がマネジメントできていれば相互評価してフラットな関係ができる。トップマネージャーさえちゃんとしていれば、メリットが生まれる」と経営者の手腕次第とします。

◆部下が上司を評価することで生産性が上がる!?

さくら構造では、上司選択制とともにその際の参考となる「班長活用マニュアル」があり、これは社員にアンケートを取り、社長を含めた上司の特徴を一覧化。「売上の確保」や「自己実現支援、導き」、「不安や悩みのケア」などそれぞれの強み・弱みを評価しています。

これに「部下から採点されることで上司が萎縮すると指摘されるが、それはひとつのメリットだと思う」と萱野さん。なぜなら、昨今ハラスメントが問題になりつつも一部の企業では根深く残り、それを変えていくためにはこうした風通しの良さは必要だから。さらには、上司の得意・不得意が視覚化されることで、弱い部分も含めて上司と付き合うことができ「人間関係の合理化につながっていくのではないか」と推察。

古井さんの会社では、班長活用マニュアルに近い“Good Bad Next”なる制度、いわゆる良い部分・悪い部分、さらには今後の改善策まで伝える「360°評価(360度フィードバック)」を以前から実施しており「(代表である)僕にも辛辣な意見があるが、“Next”が大事。そこまで言い合うことでコミュニケーションが改善されていく」と実感を語ります。

一方、堀は多くの企業の方から「360度フィードバックは難しい」という声を聞いていると前置きします。というのも、“Next”についてしっかりと提案できる人材が居ればいいものの、そうでないとただ課題だけが洗い出されて浮遊してしまい、たとえコンサルティングなど第三者が介入したとしても、企業ごとに風土や文化が違うため難しく、「細かなNextをちゃんと出せるかどうかが鍵」と指摘。

萱野さんによると、大学でも同様の施策は行われているそうですが「学生からの評価が低い先生ほどコミュニケーションが苦手で、結果にショックを受けてしまう。そして、より萎縮し、より評価が低い授業しかできなくなってしまう効果がある」と負のスパイラルに陥ってしまうケースがあるとか。そのため「大事なのは“心理的安全性”」と話します。例えば、評価が低くてもしっかりとフォローがあったり、上司に選ばれなかったとしても別の道が用意されているなど、職場における安全性・安心感が生産性を引き上げることになると力説します。

◆上司選択制の利用者、選ばれる側・上司の見解は?

実際、上司選択制を利用した方に話を伺ってみると「マンネリしていた環境を変えたという意味ではステップアップになったと思う」と感想を語ります。彼は上司が嫌で利用したわけではないそうですが、制度利用後は「得意なこと、苦手なことを上の人が開示すると、下の部下も自分の苦手・得意を開示して、それに合った仕事の選択がしやすくなった」とポジティブな意見が聞かれました。

一方、選ばれる側の上司からも「選ばれたいがために無理をするとか、自分の思っていることを言わないなど、我慢することはせずに、自然体の自分を出したなかで選んでくれる部下とだったら、数年後もうまくやっていけると思う」と前向きな声が。

さくら構造では、部下から選ばれなかった上司がいたケースがありましたが、田中社長曰く、その上司たちはとても優秀な人材でマネジメントが不向きだっただけ。配置転換したところ、現在はエンジニアとして活躍しており「こちらの方が向いていた」と逆に生き生きと仕事をしているそうです。

この事例に、河崎さんは「この組織では機能している」としつつも、多くは「苦手な人と対峙し、その向こう側に行ったときに成長や覚醒のチャンスがある。職場におけるコミュニケーションで苦手なものから避けていたら覚醒はチャンスが奪われてしまう。予定調和のキャリアでいいのか」と改めて疑問視。

番組X(旧Twitter)には「余力ある社会であれば、その苦悩を克服し、改善に繋げることができるかもしれないが、今は本当に汲々でやはりメンタル的に厳しい」という声がありましたが、萱野さんは今後「経営者の責任は大きくなると思う」と予想。その理由は、今は完全な人手不足で、会社は本質的な仕事を見定め、集中していかなければ生産性は上がらないから。「そういうことができる経営者であればうまくいくが、そうでなければ人材が疲弊し、傷ついて去っていく」と案じます。

◆誰もが働きやすい環境作りに必要なことは?

最後は今回の議論を踏まえて、上司と部下の双方が働きやすい環境作りのために必要なことを各自発表。

萱野さんは「究極的には心理的安全性が必要だが、制度はそのための手段であり、人々が忌憚なく議論しながら業務改善していくことが本来のあるべき姿」と主張。そして、その制度もそれぞれの会社の文化、ビジネス内容によって変わってきますが「だからこそ目標を見失ってはいけない」とも。

萱野さんは上司選択性のような制度ができた背景を「人手不足」と指摘。人手不足になれば会社も“生産性”に加え“人の扱い”も考えないと生き残れず「これは本当に大きなインパクト」と言います。「この変化のインパクトを過小評価してはいけない。人の希少さがますます問われるようになってくると思う」と思いの丈を吐露。

河崎さんは「人材流動性」に注目。上司選択制誕生の背景には離職率の高さがあるとし、「人が辞める、離れていくことに対し、経営者は不安を持ち過ぎていると思う。人材が流動している方が風通しは良くなり、新しい水が入ってくる。そういう組織であっていいと思うが、日本の経営者は終身雇用性に対するバイアスなどによってそれを良くないこととしている」と持論を述べます。そして「淘汰される企業はあっていい。人材流動性は高くていい。企業もどんどん形を変え、小さくなっていい、収束していいと思う」と主張。

古井さんも働きづらい職場は「今後淘汰されていくと思いますし、最終的に(社員も)転職など考え、その会社はバッドエンドが待っている」と頷き、問題解決のために必要なものとしてお互いに“リスペクトのある人間関係”を挙げます。

最後に堀は、ESG(環境・社会・ガバナンス)やSDGsなどの登場で互いが認め合えるフラットな社会になりつつあるものの「だからこそ上司を選ぶのではなく、誰でも上司になれる、要は権限をシェアできればいい」と提案。「自己決定を認める会社作りに変わっていけばいい、誰だって提案できていいんじゃないか」と訴えていました。

※この番組の記事一覧を見る
    
<番組概要>
番組名:堀潤モーニングFLAG
放送日時:毎週月~金曜 6:59~8:30 「エムキャス」でも同時配信
キャスター:堀潤(ジャーナリスト)、豊崎由里絵、田中陽南(TOKYO MX)
番組Webサイト:https://s.mxtv.jp/variety/morning_flag/
番組X(旧Twitter):@morning_flag
番組Instagram:@morning_flag

 

この記事が気に入ったら
「TOKYO MX」 公式
Facebookアカウントを
いいね!してね

RELATED ARTICLE関連記事