見えざる脅威「PFAS」国は後手の対応に 多摩地域の住民は不安

2023.06.18(日)

11:00

健康被害の恐れがある化学物質「PFAS」が多摩地域で検出されている問題についてお伝えします。気付かないうちに水道水からPFASを体内に取り込んでいたとみられる住民に不安が広がるなか、国や自治体の対応は後手に回っています。

健康被害の恐れがある化学物質「PFAS」が多摩地域で検出されている問題についてお伝えします。気付かないうちに水道水からPFASを体内に取り込んでいたとみられる住民に不安が広がるなか、国や自治体の対応は後手に回っています。

立川市に40年近く住んでいる井出さん。市民団体が行った血液検査の結果、PFASが検出された1人です。

井出さん:「えって思ったけど、あんまり科学的によく分からないままいたので。沖縄のほうで大きな騒ぎになっているのは聞いていたが、それが私たちに関係あるというのはさらさら考えなかった」

有機フッ素化合物「PFAS」は、かつて消火剤などに幅広く使われてきました。しかし水や食べ物などを通じて人体に蓄積されやすい性質があり、発がん性などの健康被害が懸念されていて、現在は国内外で規制が進んでいます。

この「PFAS」についてこのほど専門家と市民団体が、多摩地域の住民650人を対象に血液検査を実施。半数を超える335人が、アメリカで健康被害が懸念される基準値を超えました。この理由について調査した専門家は「沖縄や神奈川の米軍基地周辺でも検出されているため、横田基地が原因の一つではないか」と分析し、関係性を追及する必要があると指摘しています。

立川市に住む井出さんは検査結果を受け、水道水の利用に「不安を覚えた」と話します。

井出さん:「すごく抵抗があります。薬を飲むときも必ずいちいち冷蔵庫を空けて、ペットボトルのお水を出して、それから薬を飲むような感じになってきた」

「PFAS」は市民団体の血液検査だけでなく、東京都による水質検査でも、多摩地域の一部の浄水所で検出されています。東京都水道局は、暫定目標値を超えた40カ所の井戸からの取水を中止。進めている地下水の水質調査の計画を前倒しする方針です。また現在の水道水について、都の水道局は「定期的に給水栓で測定し、国が定める水質基準を下回っている。水質に問題はない」と、安全であることを強調しています。対応に追われる東京都。小池知事は国に対し早急な対応を求めています。

小池知事:「国がPFASに対する総合的な対応を検討中と聞いておりますので、健康の影響などついては、現時点で明らかになっていません。国としての対応を早急に示していただきたい」

現在、環境省は「PFAS」への対応を検討するため、専門家らによる会議を開いていて、この夏までに対応策をまとめる考えです。

国の方針が示されていない中、医療現場ではすでに対応が始まっています。立川市内の病院では、PFASの「相談外来」を設置。血液検査を受けた人を対象に、健康影響への不安をもつ住民の相談を受け付けています。市内に50年住んでいる佐藤さんは、医師への相談で「安心した」としながらも、血液検査の対象を広げてほしいと話します。

佐藤さん:「これが自主診療ならどれくらい金額がかかるか分かりませんし、家族でも夫が私より水を使っているので、その採血をしてもらえたら。採血できる人を広げてほしい」

多摩地域の数値が健康にどれほどの影響を与えるものなのか。長年「PFAS」の研究を続ける京都大学の原田准教授に聞きました。

京都大学 原田浩二准教授:「いまの濃度では急性な影響、すぐに病気に一人一人がそうなるかというものではない。まずこれは急性的なものではない。慢性的には将来的なリスクを考えないとならない」

そのうえで原田准教授は、国が現状に見合った「新たな基準」を早急に設定する必要があると指摘します。

京都大学 原田浩二准教授:「日本においては2020年に設定したもの。設定のもとに参考したのは2016年の米国の水道水の目標だった。そういった時間のずれがある。いま一番集まってきた知見・データを元に改めていかないとならない」

ここからは多摩地域の取材を続ける白井記者と伝えていきます。政府の対応が後手に回っているということですが、なぜでしょうか?

白井記者:「PFASに関する基準が更新されていない点が要因のひとつにあると思います。厚生労働省は暫定的な値として1リットルあたり50ナノグラムを掲げ、この基準を超える水を毎日、摂取した場合に健康への悪影響が懸念されると定めています。

ただこの数字は2020年当時のアメリカの基準値である70ナノグラムを参考にしたもので、アメリカの環境保護局が今年3月に新たに出した基準では大幅に引き下げられ4ナノグラムとなっています。

このように現在、世界各国で厳格化への動きが進み、国際的な基準が変わるなかですが、その一方で日本では基準を決める議論の動きは鈍いと感じます。この現状を受けて東京都は「科学的知見を踏まえた健康影響への評価を明確にしてほしい」と国に求めています」」

東京都は都民の疑問に答えるため、PFASに関する電話での相談窓口を設置しています。電話番号は03-5989-1772で、平日の午前9時から午後5時まで受け付けています。
 

 

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