日本人の凝り性は先史時代から変わらない!? 片桐仁が考古学から学んだこと

2023.02.25(土)

11:50

TOKYO MX(地上波9ch)のアート番組「わたしの芸術劇場」(毎週金曜日 21:25~)。この番組は多摩美術大学卒で芸術家としても活躍する俳優・片桐仁が美術館を“アートを体験できる劇場”と捉え、独自の視点から作品の楽しみ方を紹介します。2022年10月28日(金)の放送では、國學院大學博物館で考古学を学びました。

TOKYO MX(地上波9ch)のアート番組「わたしの芸術劇場」(毎週金曜日 21:25~)。この番組は多摩美術大学卒で芸術家としても活躍する俳優・片桐仁が美術館を“アートを体験できる劇場”と捉え、独自の視点から作品の楽しみ方を紹介します。2022年10月28日(金)の放送では、國學院大學博物館で考古学を学びました。

◆文字誕生以前の歴史を研究する唯一の学問「考古学」

今回の舞台は東京都・渋谷区にある國學院大學博物館。その起源は1928年、大学内に「考古学標本室」が創設されたのが始まりです。常設展示室のひとつ「考古ゾーン」では、縄文時代から近世までの貴重な資料を無料で一般公開しています。

館内を案内してくれたのは、考古学者である准教授の深澤太郎さん。深澤准教授曰く、そもそも考古学とは日本では歴史学の一分野と捉えられ、人類が生まれてから今日までの歴史、その全てを研究するもの。いわば物質資料を用いて文字資料のない時代、飛鳥時代以前のことまで研究できる歴史学だと説明します。

日本における考古学は、時代を大きく分けて3つに区分します。まずは文字が使われていなかった旧石器時代から弥生時代までの「先史時代」。続いて古墳時代に該当する「原始時代」。そして、積極的に文字が使われ始めた古代から現代までの「歴史時代」。今回、片桐は考古学を学ぶと同時に、いにしえの日本の人々の生活を辿ります。

◆土器や土偶は何のために作られたのか?

まずは先史時代。約1万6,000年前から紀元前10世紀頃までの縄文時代にフォーカスし、当時の出土品として有名な縄文土器のひとつ「深鉢(馬高式土器、火焔型土器)」(縄文時代中期)から鑑賞します。

縄文時代に文字はなく、当然文書も残っていないため、縄文土器とは何なのか正確なことはわかりません。深澤准教授によると、多くの縄文土器は“深鉢”と言われ、いわゆる“鍋”として使われていたのではないかと推察。鍋にしてはその装飾は立派ながら、深鉢の内側には焦げた部分が。

他の深鉢のなかには“お焦げ”が残っているものもあり、そうしたものを分析することで当時の食生活がわかります。ちなみに、当時の食生活はかなり豊かだったそうです。

続いては縄文時代の耳飾り「土製耳飾」(縄文時代)。一目見た片桐は「こんなに大きいものを耳に入れていたんですね!」とビックリ。これはあくまでこうした使い方をしていたであろうという予想ですが、この耳飾りが年齢や社会的な役割などを反映している可能性、さらには当時すでにさまざまな身体加工をしていたということがうかがえます。

そして、「出ましたよ!」と片桐のテンションが上がったのが「遮光器土偶」(縄文時代晩期・約3,200~2,800年前)。頭と足の色が違うのは、壊れてなくなった部分を復元したものだから。

ここで片桐からは「土偶って、何のために使われたものなんですかね?」との質問が。これに深澤准教授は「女性的な表現と言われることもあるし、精霊の姿という説もあるが、何かしらの生命力といったものを表現している可能性が高い」と返答。そして、もうひとつ特徴的なのはその柄。縄を転がし、必要な部分は磨き、すり消し、ピカピカにするなど、とても繊細な表現となっています。

そんな謎めいた土偶を、深澤准教授の計らいで手に取って見せてもらえることに。土偶を手にした片桐は「軽い!」と驚きの声を上げます。

その中を見ると「完全に粘土を人が押した跡があるんですよね。縄文人の指の跡がありますよ!」と興奮気味に語ります。

縄文時代に続き、稲作が始まったことで知られる弥生時代へ。この頃になると朝鮮半島を経て、青銅器や鉄器の技術が伝来。そこで生まれたもののひとつが「袈裟襷文銅鐸」(弥生時代後期・1世紀)。元来、朝鮮半島では小さなベルでしたが、日本では鳴らすものから、いつしか見るためのものになり、巨大化したという説があるそう。

ここでも深澤准教授が「袈裟襷文銅鐸」をケースから取り出し、間近で見せてもらうことに。内側の部分を見てみると段差のようなものがあり、そこに「舌(ぜつ)」が当たることにより音が鳴ります。その摩滅度合いで音を鳴らすのに使われていたのかがわかります。

◆埴輪は元来、人型ではなかった!?

縄文人の食生活や美意識に触れ、弥生人による芸術作品を見た後は、巨大な権力が生まれ始めた原史時代へ。この頃になると鉄剣や刀に文字が刻まれ始めますが、それのみでは人類の過去を知ることはできません。

片桐が「このかわいらしい土器も原史時代のものですか?」と注目したのは「挙手人面土器」(古墳時代前期・4世紀)。これは日本でまだ一例しかないであろうという貴重かつ不思議な土器で、大きな石の下から見つかったもの。

そして、その両脇には一緒に出てきた「高坏」(古墳時代前期・4世紀)と「広口壺」(古墳時代前期・4世紀)も展示。どちらも弥生時代の伝統を汲む土器ですが、これらは普段の飲食ではなく、お祭りなどに使われたものだと考えられているそうです。

片桐が「シンプルですけど、立派な壺ですね」と見入っていたのは「壺形型埴輪」(古墳時代前期・3世紀)。深澤准教授によると、これは埴輪の一種だそうで、それを聞いた片桐は驚き、「埴輪の定義とは!?」と問いかけます。

そもそも埴輪とは古墳に並べられた死者に捧げるための道具で、その起源は岡山。そして、この「壺型埴輪」は死者に捧げるための食べ物や飲み物を入れる壺を表現した焼き物とそれを載せるための台で、そうしたセットから埴輪は始まり、人型や動物型ができたのはずっと後のことだとか。

続いて人型の「埴輪」(古墳時代後期・6世紀)を前に「これですよ、我々の(思う)埴輪は」と片桐。

この人型の埴輪の群像は従来、葬式や死者の生前の様子を表現したと言われているものの、深澤准教授の考えは違うようで「私は中国の兵馬俑と同じように死者に捧げるための道具のひとつだったと思う」と語ると、片桐も「死後の世界みたいなものを考えられていたんですかね」と埴輪に思いを馳せます。

ちなみに、日本神話のなかには殉死のために埴輪作りが始まったという物語があるそうですが、それは考古学的には否定されているそう。なぜなら、埴輪は死者に食べ物や飲み物を捧げる象徴的な行為として始まっているからだと深澤准教授は解説。

◆それまでの直刀とは異なる「最古の日本刀」

そして歴史時代。國學院大學博物館には平安時代の貴重な考古資料が多数あり、そのひとつが「毛抜形太刀」(平安時代・10世紀)です。

この刀は刀身が若干湾曲していますが、古墳時代から奈良時代までの刀は基本的に直刀、まっすぐなものでした。しかし、一般的な日本刀は曲がっていることから、これは“日本刀の走り”、ある意味、最古の日本刀のひとつと言えるとか。

そして、最後は南北朝時代の作品「和鏡(鏡像)」(南北朝時代後期・14世紀)です。

その鏡面に彫られているのは神様の絵。今でも鏡がご神体として祀られている神社や寺院は数多くあることからも、鏡が古くからそうした場を飾るための道具として使われていたことがうかがえます。なお、当時、鏡自体は鋳型で量産していたものの、神様の像は1点1点手作業。それを聞いた片桐は「いろいろな神様を彫っていたんですね」としみじみ。

今回は國學院大學博物館で考古学についてたっぷりと学んだ片桐でしたが「我々のルーツである日本人の性というか、凝ってしまう、そして理由もなく型になって進み続けてしまう、それは火焔型土器や埴輪もそうだったんですね」と夢想し、さらには「ものづくりのこだわりが行きすぎて目的が変わってきてしまう、まさに凝り性みたいな日本人の性質を改めて実感しました」と率直な感想を吐露。

そして、「ものを通じて、はるか昔の日本で暮らした人々を感じさせてくれた國學院大學博物館、素晴らしい!」と称え、悠久の時を越え、時代を伝えてくれた先人たちに拍手を贈っていました。

◆今日のアンコールは、「斉明天皇の夾紵棺 牽牛子塚古墳」

國學院大學博物館の展示作品のなかで、ストーリーに入らなかったもののなかから深澤准教授がぜひ見てほしい資料を紹介する「今日のアンコール」。深澤准教授が選んだのは「斉明天皇の夾紵棺 牽牛子塚古墳」(661年)です。

これは奈良・飛鳥村の牽牛子塚古墳から出土した棺の破片で、最近の研究ではそこは斉明天皇の本当の御陵(皇室のお墓)だと言われているそう。そして、これは麻布を漆で何重にも塗り固められてはいるものの非常に軽く、天皇や皇族など立場の高い人物のために作られた棺で、つまり斉明天皇が入っていたかもしれないという、とても貴重な資料だとか。

また、これを採集してきたのは國學院大学の名誉教授・樋口清之氏。彼は奈良県各地で採集した考古遺物約4,000点を1928年に大学に寄贈。この國學院大學博物館のもととなる考古学標本室を創設しました。そうした作品の重要性と同館設立のきっかけになったものであることが、「今日のアンコール」にセレクトした理由でした。

最後はミュージアムショップへ。片桐はまずTシャツコーナーを物色。土偶や勾玉をモチーフにしたものなどがあり「いいですね~」と目を輝かせます。

さらに「これはデザイン性を感じますね!」とポストカードにも興味津々。そんななか、最も関心を寄せていたのがクリアファイル。火焔型土器が描かれた絵とも写真とも違う不思議なデザインに目を奪われていました。

※開館状況は、國學院大學博物館の公式サイトでご確認ください。

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<番組概要>
番組名:わたしの芸術劇場
放送日時:毎週金曜 21:25~21:54、毎週日曜 12:00~12:25<TOKYO MX1>、毎週日曜 8:00~8:25<TOKYO MX2>
「エムキャス」でも同時配信
出演者:片桐仁
番組Webサイト:https://s.mxtv.jp/variety/geijutsu_gekijou/

 

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