TOKYO MX(地上波9ch)のアート番組「わたしの芸術劇場」(毎週金曜日 21:25~)。この番組は多摩美術大学卒で芸術家としても活躍する俳優・片桐仁が美術館を“アートを体験できる劇場”と捉え、独自の視点から作品の楽しみ方を紹介します。今回の放送では、東京都・品川区にある寺田倉庫G1ビルで開催されていた「ブルーピリオド展 ~アートって才能か?~」に伺いました。
◆片桐仁が大好きな漫画の展覧会へ
片桐が大好きと公言するマンガ「ブルーピリオド」。これは、高校生活をそつなくこなしていた主人公・矢口八虎が絵を描くことの楽しさに目覚め、最難関の東京藝術大学を目指す物語で、2020年には「マンガ大賞」を受賞。累計発行部数は550万部を超え、アニメ化もされるなど話題の作品です。
そんな「ブルーピリオド」を銘打つ展覧会「ブルーピリオド展 ~アートって才能か?~」では、原画や作中に登場する作品の展示に加え、今回は「ブルーピリオド」というタイトルにちなんだ企画も。これはピカソの青年期の画風「青の時代」が由来のひとつで、瑞々しくも時に苦しい青春時代も表現。そこで現在第一線で活躍する芸術家たちの若かりし頃の作品を展示するほか、美術そのものを楽しんでもらいたいと数多くの企画を展開。
本展を企画したクリエイティブディレクター・宮下良介さんは「作者の山口つばささんが仰っていたことでもあるが、アートはどうしても難しいと感じる方が多い。そうした方々のハードルを少しでも下げられるような展覧会にできたら」と「ブルーピリオド展」開催の意図を語ります。ちなみに、片桐はすでに本展に一度訪れ、楽しんだそう。
◆既存の美術展では味わえない…ブルーピリオド的絵画の楽しみ方
まずは「ブルーピリオド」読者なら一目でわかる、美術部の森先輩が大学推薦入試のために制作した作品。これは作中に描きかけの状態で登場するため、ここでも未完成のまま展示されています。
「ブルーピリオド」には多くの絵画が登場しますが、それらは現役の美大生やアーティストが描いたものとあって各々個性が垣間見え、リアリティもたっぷり。本作もアーティスト・灯まりもが手がけたもので(「天使の絵(森先輩の絵)」)、作中では森先輩の「あなたが青く見えるなら、りんごもうさぎの体も青くていいんだよ」という言葉とともに登場します。
主人公の八虎は美術の授業で自分が感じたままに渋谷の街を青く描いたことで初めて人と会話できた感覚を覚え、それを機に美術への関心を深めます。そしてその後、多くの作品に触れ、興味を広げていきますが、会場内にはその気分を追体験できるコーナー「描くのは好き、見るのは苦手」があります。
そこには「ブルーピリオド」に登場する名画が並び、敢えてタイトルや作者、キャプションなどの情報を伏せて展示されており、直感で好きな絵画を選んでいくような、作中でも行われる“買い付けごっこ”が体験可能。そこで片桐も一度それらが名画であることを忘れ、自分は欲しいかどうかで作品を見ていくことに。
まずはヨハネス・フェルメールの作品。複製ですが、サイズは実寸。片桐は「(普通は)これは誰々の絵でってなるんですけど、何も書いていないのでパッと見でこれは欲しいな、家に飾りたいな、買いたいなって気持ちで見るんですね。これは日常のなんでもない一般の方を描いた絵で、外から光が入ってきている感じが綺麗ですよね。これはもう家に飾りたい。サイズ感もいいですね。子どもがこれを見て育ったらいいかなみたいな」と想像を膨らませます。
続くフィンセント・ファン・ゴッホの作品を前にすると「ゴッホだから欲しいと思っちゃうんですね~」、「これは130年ぐらい前の絵ですからスゴいですよね。でも、それを知らないという設定ですよね、難しい。俺はやっぱり頭が硬いな(笑)。頭でっかちなんだと思いましたね」と憤悶。
フェルメールやゴッホ、グスタフ・クリムトら巨匠の作品がキャプションなしで並びつつ、その裏には技ありの仕掛けが。続くスペースには超詳細なキャプションが展示され、作品の背景や情報、さらにはそれを見た人たちの感想も。
◆今をときめく人気作家たちの貴重なブルーピリオド
次のコーナーは、現在活躍している作家たちの若かりし頃、無名時代の作品を展示した「あの人のブルーピリオド」。今回の展覧会だけの、貴重な特別展示です。
まずは美術家・会田誠が高校3年生の頃、御茶の水美術学院の夏期講習で描いた木炭デッサン「無題」(1983年)で、これは本邦初公開。
そんな作品を前に、片桐は「すごいですね」と驚きつつ、「描き分けですよね、カチッと硬さを表現するとか、この女性の肌の感じとか。でも、まだ高校生だからあまり数を描いていない頃ですよね」と感服。当時、会田は御茶の水美術学院の先生に「ハエが這うような空間を描け」と言われ、それを目指して描いていたそうですが、その作品からは普段ラディカルな作風で知られる彼らしさがすでに感じられます。
そして今、とても勢いのある画家の1人、水戸部七絵が高校3年生の横浜美術学院時代に描いた作品「トマトのある静物画」(2006年)。片桐は「この油絵はいいですね。このトマトのヘタはもう本物みたいに立体的、超立体的ですよ。こういう絵はなかなか予備校では描けないんですけどね」と唸ります。
なぜなら「僕ら90年代は、こういう個性的な静物画を描いた人は先生にボロカス言われていましたから」と片桐。しかし、最近はそうした傾向はなくなり、みんな自由。受験時代に描いていた作風そのままに活躍する作家も増加。水戸部も油絵を豪快に厚塗りした作風で知られ、この頃から現在に繋がる作品を制作していたことがうかがえます。
そうした状況に片桐は「もうプロ意識みたいなものと自分の世界観みたいなものを自分で意識しつつ、周りも許容するようになってきたということですかね」としみじみ。
さらに、グラフィックデザイナーとして活躍中の服部一成が高校3年生のときに美大受験予備校のすいどーばた美術学院で制作した「オイルサーディンの缶詰」(1982年)の平面構成も。平面構成とはデザイン系の美大入試の定番課題で、与えられたテーマやモチーフをポスターカラーやアクリル絵の具で色彩表現するもの。
この作品では缶詰の中身が描かれていますが、注目すべきはその配色。色相が逆の色だったり、鮮やかな色とグレイッシュな色を対比させることでハレーションを起こしたような不思議な色使いがなされています。これは当時、服部が好きだった横尾忠則の色を真似して制作されたそう。
片桐は「オイルサーディンの缶詰は、実際はこんなにカラフルじゃない、それをこうたくさん色を使って。しかも“SARDINE”という文字も」とただただ見入りつつ、「(平面構成は)正解がわからないですよね。ただ、色づかいでセンスの有無がわかるんですよ。これ苦手だったなぁ」と自身の若かった頃を想起。
ちなみに、片桐のブルーピリオドは10代から20代にかけての多感な時期。同じ志を持った仲間たちとの出会い、さらには学生時代に薫陶を受けた教授などの言葉が今なお刻み込まれていると回顧する場面も。
◆自身のブルーピリオド振り返るべく、片桐がデッサンに挑戦
続いてのコーナーには、石膏像がズラリ。しかし、それは既存の石膏像ではなく、ブルーピリオドのキャラクターとコラボしたオリジナル石膏像。ダヴィデ像に扮した八虎「ヤヴィデ」や主人公の友人・高橋世田介とブルータス像を掛け合わせた「ヨタータス」などが並んでいます。
この「キャラ大石膏室」では来場者がデッサンすることができます。そこで、片桐もヨタータスをデッサンすることに。
「どうやって描くんだっけな」、「出ましたデスケル!」など久しぶりのデッサン、懐かしの道具を手に興奮気味の片桐の目は真剣そのもの。「胸がこうあって、胸板があって、肩、首……」、「顔を描いちゃえば進んだ感じするもんな……」と描き進めていきます。
課題によっては丸1日かけることもあるデッサンですが、今回はロケの都合上制限時間は30分。「時間が全然足りない…鉛筆の絵を描くってどんな感じだったけなっていう。あとはちょっと上すぎましたよね」と反省しつつ、「とりあえず顔だけは」と必死に描くも、途中で終了。
「ブルーピリオド展」を存分に堪能した片桐は「やっぱり芸大受験の漫画ということで、美術全体を楽しんでもらうためのきっかけにもなりますし、さらに美術館が好きな人にもいろいろな可能性を提示してくれる展覧会だったんじゃないかと思います。とにかく楽しめて、人それぞれ(芸術の)楽しみ方があるということを知ることができますね」と大満足の様子。
そして、「誰しもがあった描きたいという衝動、それを追体験させてくれた『ブルーピリオド展』素晴らしい!」と絶賛し、全ての芸術家たちの青の時代に拍手を贈っていました。
◆今日のアンコールは、キービジュアルの原画
「ブルーピリオド展」の展示作品の中で、今回のストーリーに入らなかったものの中からクリエイティブディレクターの宮下さんがぜひ見て欲しい作品を紹介する「今日のアンコール」。宮下さんが選んだのは、本展覧会のキービジュアルの原画です。
今回のキービジュアルはさまざまな描き方で、八虎をはじめとする「ブルーピリオド」のキャラクターが描かれています。それはブルーピリオドな日々を送る美大受験予備校の生徒たちにコミックスの表紙を描いてもらい、それらをコラージュしたもの。制作過程はなかなか大変だったようで、片桐は「彼ら(予備校生)にとってもなかなか経験できないことですもんね」と目を細めます。
最後はミュージアムショップへ。ボールペンやタブレット、Tシャツ、クリアファイルなど定番アイテムが並ぶなか、スケッチブックや「ブルーピリオド」のキャラクターをモチーフにしたアクリルスタンドも。さらに、片桐が「見てください!」と思わず声を上げたのは丸型の変形キャンバス。ハート型もあり「美術展でキャンバスを売ってるところはなかなかないですよ!」とビックリ。
あとは、すでに購入済みだというのが“TOKYO GEIDAI”と刻まれたボールペン。「(東京藝術大学は)憧れなんで」と片桐は話していました。
<番組概要>
番組名:わたしの芸術劇場
放送日時:毎週金曜 21:25~21:54、毎週日曜 12:00~12:25<TOKYO MX1>、毎週日曜 8:00~8:25<TOKYO MX2>
「エムキャス」でも同時配信
出演者:片桐仁
番組Webサイト:https://s.mxtv.jp/variety/geijutsu_gekijou/
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