建物さえもアート…開館40周年を迎えた埼玉県立近代美術館で片桐仁が“埼玉”を堪能

2022.07.16(土)

11:50

TOKYO MX(地上波9ch)のアート番組「わたしの芸術劇場」(毎週金曜日 21:25~)。この番組は多摩美術大学卒で芸術家としても活躍する俳優・片桐仁が美術館を“アートを体験できる劇場”と捉え、独自の視点から作品の楽しみ方を紹介します。4月22日(金)の放送では、開館40周年を迎えた「埼玉県立近代美術館」に伺いました。

TOKYO MX(地上波9ch)のアート番組「わたしの芸術劇場」(毎週金曜日 21:25~)。この番組は多摩美術大学卒で芸術家としても活躍する俳優・片桐仁が美術館を“アートを体験できる劇場”と捉え、独自の視点から作品の楽しみ方を紹介します。4月22日(金)の放送では、開館40周年を迎えた「埼玉県立近代美術館」に伺いました。

◆埼玉県立近代美術館、その誕生と印象派

今回の舞台は、埼玉県・さいたま市にある埼玉県立近代美術館。日本を代表する建築家・黒川紀章が設計を手がけた最初の美術館として、1982年に開館。埼玉県にゆかりのある作家の作品を中心に、国内外の優れた作品を収集。約4,000点を所蔵しています。

片桐はそんな埼玉県立近代美術館で今春開催されていた開館40周年記念展「扉は開いているか - 美術館とコレクション1982-2022」へ。学芸員・鴫原悠さん案内のもと、印象派の巨匠の作品から現代アートまでさまざまな作品を通じ同館の歴史を振り返ります。

まずは、田中一光がデザインした開館記念展のポスター「開館記念展 印象派からエコール・ド・パリへ その情熱と苦悩」(1982年)を鑑賞。

片桐は「もとの絵はなんですか?」と下地が気になるようでしたが、同館の所蔵品クロード・モネの「ジヴェルニーの積みわら、夕日」(1888~89年)であることを聞き「気合入っていますね~!」と唸ります。

そして、その隣には実物が。モネは画業の後半、フランス・ノルマンディ地方のジヴェルニーに移住し、そこで「積みわら」をはじめ、「睡蓮」や「大聖堂」などの連作を制作していましたが、これはそのなかの1枚。

片桐は「これ、綺麗な絵ですね」、「すごく細かく色数を使っている、良いときのモネ」と見惚れ、さらには「こういうものに当時、日本の画家たちも影響を受けていったということですもんね……」と感嘆。日本においても印象派の登場はセンセーショナルで、その衝撃は埼玉ゆかりの画家たちにも大きな刺激を与えました。

そのひとりが埼玉県越谷市出身の画家・斎藤豊作。今回の展覧会では、開館記念展にも出品された「フランス風景I」(1910年頃)が展示されていますが、彼は東京美術学校卒業後にフランスに留学。その後、印象派の表現を持ち帰り、日本の画壇で紹介した作家のひとりで、とりわけアンリ・マルタンというフランスの作家に影響を受け、点を重ねて作品を描くようになります。

一方、セザンヌを敬愛していたのが、埼玉県熊谷市出身の画家・森田恒友。これまた開館記念展に出品された彼の「フランス風景」(1915年)を一目見た片桐は、「これは知らないとは言わせないぐらいの感じで、セザンヌ丸出し」と思わず笑みが。しかも、構図や描き方に留まらず、恒友はセザンヌの自然や風景に対する向き合い方、自然との共生といった人生観にも共鳴。そうした制作の態度そのものも、セザンヌを尊敬した理由だったと本人は生前語っていたとか。

ただ、恒友は帰国後、日本の風土や自然にあった表現を求め、油彩画から日本画へと転向。とはいえ、転向後に描いた風景画「山麓」(1920年)も手法は違えどセザンヌから学んだ「自然との共生」は継続されているように伺えます。

◆埼玉県立近代美術館の歴史を支えた地元作家たち

モネをはじめとするヨーロッパの近代美術に影響を受けた埼玉の画家たちの作品によってスタートした埼玉県立近代美術館は、その後も埼玉にゆかりある作家たちがその歴史を彩ってきました。

その1人がさいたま市出身の画家・高田誠。彼は若くして才能を開花させ、16歳のときに歴史ある展覧会「二科展」に入賞。片桐も「高校生で二科展に入賞するって相当ですよね」と驚いていましたが、そのときの作品が「浦和風景」(1929年)です。

当時からしっかりとした構図には定評がありましたが、そこから徐々に自身のスタイルを確立。細かい点を重ね、自然の風景や静物画を描くようになります。そして、その詩情溢れる色彩豊かな作品は高く評価され、同時に埼玉県の美術振興にも尽力しました。

続いては、日本画の画家・橋本雅邦の「乳狼吼月」(1899年頃)。「これ、すごく漫画チックなね、この表情というか、目が飛び出していて」と片桐が評するように、その表情はデフォルメされ、とてもユーモラス。

雅邦は狩野派に入門し、そこで日本画の基礎を学習しますが、明治時代に入ると西洋美術が日本に浸透。誰もがそれを取り入れた新たな日本画を制作し始めると、雅邦も遠近法などを導入。しかも根底にある狩野派の技術を西洋美術に織り混ぜ、新たな表現を模索します。また、作家としての活動と同時に、彼は東京美術学校開校時に教授となり、横山大観や菱田春草らを指導していました。

◆美術館の建物自体がアート、さらにはコインローカーも

最後は展示室を飛び出し屋外へ。というのも、前述の通り、この美術館の設計は稀代の建築家・黒川紀章の手によるもので、建物自体がアート。そのコンセプトは“建物と公園との共生”で、建物の出入り口前は「内でもあり、外でもある」という黒川の建築の考え方を体現する中間的な感覚の空間になっています。

そして、建物を見渡すと壁面の一部から四角い柱のようなものが突出。これはもともと建物にあったものではなく、彫刻家の田中米吉がこの美術館の空間に合わせて制作した「ドッキング(表面)No.86-1985」(1985~86年)。

「これ、黒川さんは何か言ってないんですか? 建築家は怒りそうですけど」と片桐は案じていましたが、もちろん本人の承諾済み。そして、再び館内に入り、館内からその作品を見ると「おぉ、すげ~!」と驚嘆。片桐は「中から見ると全く違う感じ。一見、作品かどうかわからないのは面白い。現代美術って感じ」と率直な感想を語ります。

その他、展示品はなんとコインロッカーにも。透明な扉の中にはデジタルカウンターを使った作品で知られる宮島達男の「Number of Time in Coin-Locker」(1996年)が。

作品を前に、片桐は「これ作品なんですね!」と驚きの声。これはコインロッカーの一角に、1から99までの数字がカウントされるデジタルカウンターを用いた作品で、150人の埼玉県民に数字が進む速度を設定してもらったガジェット(小型装置)を150個無造作に積まれています。全てのモニターが異なる動きをしており、片桐は「これも作品にできるんですね、すげ~!」と目を見張ります。

今回、埼玉県立近代美術館の記念すべき40周年記念展をめぐり、片桐はある長年の疑問が解けたそう。それは「県立美術館に印象派が多い理由」。「なぜ県立美術館にはモネやセザンヌ、ルノアールとか印象派の作品があるのかなって思っていたんですけど、やっぱり日本に西洋画が入ってきたときに、一番衝撃的だったのが印象派で、その作家たちに影響を受けた日本人作家も地元の作家も一緒に展示するというのがセットだったんですね」と感銘を受けた様子。

また、「僕は埼玉県出身ですが、恥ずかしながら(埼玉県立近代美術館は)初めて来ましたけど、とても良い美術館ですね」と反省しつつ、「さまざまな美の挑戦を今も続けている埼玉県立近代美術館、素晴らしい!」と称賛。そして、40年間積み重ねた歴史に貢献した数多くの芸術家たちに拍手を贈っていました。

◆今日のアンコールは、小村雪岱の「おせん」

埼玉県立近代美術館の展示作品のなかで、今回のストーリーに入らなかったものなかから学芸員の鴫原さんがぜひ見てもらいたい作品を紹介する「今日のアンコール」。今回選ばれたのは、小村雪岱の「おせん」(1941年頃・没後の後摺り)です。

画中には数多の傘が描かれており、これは人を探すも人通りが多くてなかなか見つからないというシーンで、本来は1930年代に新聞に連載された小説「おせん」の挿絵。それが雪岱の没後、版画となって復活。雪岱はもともと日本画を学んでいましたが、その後、デザインや挿絵の仕事などで一躍人気に。片桐もその出来栄えを「見ていて楽しい」と食い入るように見ていました。

最後はミュージアムショップへ。まず琴線に触れたのは「花咲く! ピクルス」。これは地元の野菜を使ったピクルスで、その形がまたかわいさ満点。「これは『食べるのがもったいない』ってみんな言いますよ!」と片桐。

また、「これはすごいですね!」と驚いていたのは、開くと桜が咲き乱れるポップアップカード。さらにはフルーツソープなどさまざまなグッズを物色するなか、片桐の目に留まったのは同館オリジナルのトートバッグ。そこには「埼玉」にちなんで玉に乗ったサイが描かれており、「僕も以前、似たような作品を作ったんですよね。僕は玉になっているサイを作ったんですよ」と思い返していました。

※開館状況は、埼玉県立近代美術館の公式サイトでご確認ください。

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<番組概要>
番組名:わたしの芸術劇場
放送日時:毎週金曜 21:25~21:54、毎週日曜 12:00~12:25<TOKYO MX1>、毎週日曜 8:00~8:25<TOKYO MX2>
「エムキャス」でも同時配信
出演者:片桐仁
番組Webサイト:https://s.mxtv.jp/variety/geijutsu_gekijou/

 

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