西洋の画法を学んだ“理系の人”葛飾北斎の技巧に片桐仁が迫る

2021.10.30(土)

11:50

TOKYO MX(地上波9ch)のアート番組「わたしの芸術劇場」(毎週土曜日 11:30~)。この番組では、多摩美術大学卒業で芸術家としても活躍する俳優・片桐仁が、美術館を“アートを体験できる劇場”と捉え、独自の視点から作品の楽しみ方を紹介します。8月21日(土)の放送では、「すみだ北斎美術館」で葛飾北斎に思いを巡らせました。

TOKYO MX(地上波9ch)のアート番組「わたしの芸術劇場」(毎週土曜日 11:30~)。この番組では、多摩美術大学卒業で芸術家としても活躍する俳優・片桐仁が、美術館を“アートを体験できる劇場”と捉え、独自の視点から作品の楽しみ方を紹介します。8月21日(土)の放送では、「すみだ北斎美術館」で葛飾北斎に思いを巡らせました。

◆西洋の画法を巧みに用いた冨嶽三十六景

今回の舞台は、東京・墨田区にある「すみだ北斎美術館」。世界的に有名な浮世絵師・葛飾北斎が現在の墨田区で生涯のほとんどを過ごしたことなどから、2016年にこの地に開館。北斎や弟子の作品を中心に約1,900点を所蔵しています(2021年4月時点)。

片桐が訪れたのは、この夏開催された特別展「THE北斎 ―冨嶽三十六景と幻の絵巻―」。代表作「冨嶽三十六景」をはじめ、北斎の貴重な肉筆画も合わせて楽しめる特別展です。

同館の主任学芸員・奥田敦子さんの案内のもと、まずは「冨嶽三十六景」シリーズから観賞。同じ富士を描くにも、西洋の画法を学んだ北斎はさまざまな技法を使い、異なる印象を生み出しています。

「冨嶽三十六景 江戸日本橋」を見た片桐は「一点透視というか、パースがすごくついている絵ですね」と感心。北斎は、本作で西洋の透視図法(線遠近法)を取り入れ、空間の広がりを表現しています。

また、片桐が「この絵も抜け感がいいですね」と語る「冨嶽三十六景 御厩川岸より両国橋夕陽見」では、手前をはっきり、遠方をぼんやり描く空気遠近法のような手法が用いられ、とても広々とした様相に。見事に隅田川周辺の広い空間を描いています。

これは蔵前と現在の墨田区の本所の間を行き来する乗合船の様子を描いたもので、その船には手拭いを川に浸している人がいたり、貸本屋がいたりとさまざま。作品からは一人ひとりの表情が伺え、「物語が見えるのが面白い」と片桐は興味を示します。

その他にも、北斎は丸や三角を巧みに使い、絵に活き活きとした表情を加えていました。それが顕著なのが「冨嶽三十六景 遠江山中」。これは三角形を意識した構図になっており、なかでも木材を支える支柱からできる三角形のなかに見える三角形の富士山がちょうどいい位置に収まっているのが印象的。

その構図の素晴らしさに片桐は「美術といえば文化系の印象があるけれど、めちゃくちゃ理系の人なんですね」とビックリ。一方、「冨嶽三十六景 尾州不二見原」は丸が構図の要となっており、丸い桶の先に富士山が。片桐も「もはや富士山を美しく見せるための桶ですよね」と見入ります。

◆初摺、後摺の違い…江戸時代の浮世絵版画の作り方

続いての作品を一目見た片桐は「これは同じ絵ですか……?」と目を丸くします。しかし、よく見てみると「同じ絵に見えてだいぶ違いますけど……どんな違いがあるんですか?」と奥田さんに質問。

これは冨嶽三十六景シリーズのなかでも「神奈川沖浪裏」と「凱風快晴」と並んで三役に挙げられる「山下白雨」。「初摺」に近いものに加え、「後摺」、「変わり図」が並んで展示されています。

江戸時代の浮世絵版画の作り方としては、まず企画の立案から制作全体を仕切る版元が北斎のような絵師に絵を発注。そして、でき上がった下絵をもとに堀師と摺師が版元と絵師のチェックを経て錦絵を完成させていく、各分野のプロたちの分業で制作していました。

版木は使う色の数と同じ枚数を彫る必要があり、まずはベースとなる輪郭線を掘って摺り、そこにずれないよう次々と別々の色を摺って重ねていくという熟練の職人技でようやく1枚の錦絵が完成します。

そして、最初に摺られるものが「初摺」で約200枚。人気の出た作品は「後摺」と呼ばれる再版が行われ、なかには数千枚摺られるものもあったそうですが、初摺は絵師と版元が立ち合い摺られているため絵師のイメージに最も近く、さらには版木があまり摺り減っていないため、とてもシャープな仕上がりとなります。

今回はそんな初摺と後摺が並べられており、片桐は「構図は完全に同じですけど、富士山の色がちょっと赤っぽいですね。あとは雷も太くなって」とその違いを指摘。実際、摺りが違うと色の調合が変わり、さらには何度も摺ると版木が摩耗し、絵の具の付きが悪くなるとか。また、一部欠けるところなどもあり、この後摺でも山頂付近の点が1つ消えています。

「変わり図」となるとさらに変わり、「これはもう別の絵ですね。木が生えていますし、雷の下も白く抜けている」と片桐。そして、後摺と変わり図は北斎自身チェックしているのかと訝しみます。片桐が言う通り、絵師もそうそう立ち会うことはできず、徐々に作品は絵師から離れ、版元の独断などで色が変わることがあるそうです。特に変わり図となるともはや版元の意向、絵師の預かり知らないところで売り出すために作品が変化。その違いを目にした片桐は「並びで見ると面白いですね」と感想を述べます。

さらに、片桐が「すげ~っ!」と声を上げて驚いていたのは「『桜に鷹』ほか四面版木火鉢」。これは版木を使った火鉢で、相当レアなものだとか。というのも、そもそも版木自体が高価な木材を使用しており、削り直して他の図柄を彫ったりもするのでなかなか残っていません。

しかも、今回の特別展では隣に錦絵「桜に鷹」も展示されており、版木と見比べることが可能。「版木を見たときはわからなかったけど、この爪のまわりの細かい部分、こんなになっていたかな……」と片桐は見比べて楽しみ、「とても貴重ですね。細かい部分がすぐに見に行ける。職人さんのすごさもわかります」と笑顔で語ります。

◆葛飾北斎を通じて版画の素晴らしさを堪能!

次は肉筆画の絵巻物「隅田川両岸景色図巻」を鑑賞する片桐。「やっぱり肉筆は全然違いますね……」と圧倒された様子。この作品も遠近感を出すために手前は大きく、遠くはシルエットで描かれています。さらに、東洋の絵画ではあまり描かれていない影が描かれており、そこからも北斎が西洋画を学んでいたことが伺えます。

その後は4階の常設展示室「AURORA」へ。そこには北斎の若い頃の作品や代表作が実物大高精細レプリカで紹介されています。なぜレプリカなのかといえば、浮世絵は色が退色しやすいから。来場者がいつ来ても作品が見られるようレプリカが展示されています。

そんなレプリカを前に片桐は「システムとしての版を見ているので、見方がだいぶ変わりますね。段々これができていっているのが想像できますよね」と話し、制作工程を知った上で作品を見るとその印象が違うと感想を語ります。

最後は「北斎のアトリエ」を再現した模型を見学。北斎の弟子が画室の様子を描き残しており、それを参考に作られたようで「こんな状態で描いていたんですか?」と目を丸くする片桐。なんと北斎はコタツから上半身を出した体勢で絵を描いており、その隣には娘の「お栄」も。これは北斎84歳ごろの様子だそうで、片桐は「それでも描いていたと……スゴイな」と驚き、「そう考えると未来が明るくなりましたね」と北斎の頑張りに刺激を受けた様子。

今回、大好きな葛飾北斎の魅力を堪能した片桐は、「我々は絵と言っていますけど版画であり、北斎が絵師として絵を描き、それを彫る人がいて摺る人がいる。この事実を見せてもらい、改めてスーパー職人たちの合作ということを教えてもらいましたね」と感想を述べます。そして、「葛飾北斎を通して版画の素晴らしさを教えてくれた『すみだ北斎美術館』、素晴らしい!」と感謝し、生涯現役を貫いた天才絵師に盛大な拍手を贈っていました。

◆片桐が惹かれた、なんとも言えないお祭り感

ストーリーに入らなかった作品から片桐がどうしても紹介したい作品をチョイスする「片桐仁のもう1枚」。今回、片桐が選んだのは「冨嶽三十六景 東海道金谷ノ不二」。

この作品には100人を超える、ものすごい数の人が描かれていますが、「北斎もよく描きましたよね」と呆気に取られる片桐。「(作品からは)愉快な声が聞こえる。相当やかましいけど波の音があるからあまり聞こえないんでしょうね……大変だけど大騒ぎする愉快な感じがして、このなんとも言えないお祭り感がいいなと思って」とこの作品を選んだ理由を明かしていました。

※開館状況は、すみだ北斎美術館の公式サイトでご確認ください。

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<番組概要>
番組名:わたしの芸術劇場
放送日時:毎週土曜 11:30~11:55<TOKYO MX1>、毎週日曜 8:00~8:25<TOKYO MX2>
「エムキャス」でも同時配信
出演者:片桐仁
番組Webサイト:https://s.mxtv.jp/variety/geijutsu_gekijou/

 

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