印象派、象徴主義からフォーヴィズムへ…俳優・片桐仁が名作で体感

2021.07.10(土)

11:50

TOKYO MX(地上波9ch)のアート番組「わたしの芸術劇場」(毎週土曜日 11:30~)。この番組では、多摩美術大学卒業で芸術家としても活躍する片桐仁が、美術館を“アートを体験できる劇場”と捉え、独自の視点から作品の楽しみ方を紹介します。5月29日(土)の放送では、「群馬県立近代美術館」で“フォーヴィズム(野獣派)”に注目しました。

TOKYO MX(地上波9ch)のアート番組「わたしの芸術劇場」(毎週土曜日 11:30~)。この番組では、多摩美術大学卒業で芸術家としても活躍する片桐仁が、美術館を“アートを体験できる劇場”と捉え、独自の視点から作品の楽しみ方を紹介します。5月29日(土)の放送では、「群馬県立近代美術館」で“フォーヴィズム(野獣派)”に注目しました。

◆見たままの印象を切り取る“印象派”

今回の舞台は、群馬県・高崎市にある「群馬県立近代美術館」。1974年に開館し、国内外の現代・近代美術をはじめ、日本や中国の古美術まで幅広い分野の名作を所蔵しています。ルノワールやモネなど印象派の作品も数多く展示されています。

今回注目するのは“フォーヴィズム(野獣派)”。片桐自身「言葉は知っているし、アーティストも知っているけど、どういう経緯でそこに至ったのかは正直あまりわかっていない」と言うフォーヴィズム誕生の経緯を、同館の特別館長・岡部昌幸さんとともに振り返ります。

まずはフォーヴィズムの前段となる「印象派」から。ここには、印象派を代表するオーギュスト・ルノワールの「読書するふたり」(1877年)が展示されており、一目見た片桐は「作品自体は小さいけど細かい……」と息を呑みます。

この作品は、印象派の特徴“見たままの印象”を明るく柔らかな色彩で表現。片桐も「遠くからはおとなしい感じに見えるけど、近くで見るとこの細かいタッチはルノワール。動きがある。肌や服の色を見てもすごい数の色。輪郭とかそこまでくっきり描いていないけど、浮かび上がる感じ」と評すように、実際に色の使い方は非常に繊細かつ複雑。タッチも撫でるような感じで、ルノワールならでは。

続いては、印象派を語るには欠かせない存在、クロード・モネ。ルノワールよりも1歳年上のモネが44歳の頃に描いた「ジュフォス、夕方の印象」(1884年)を鑑賞。

これは水面が穏やかに輝く一方で、山の手前側は徐々に暗みを帯びていく、まさに夕暮れが迫る瞬間の繊細な光を捉えた作品で、光と色の移ろいの表現にこだわり続けたモネの鋭い観察眼によって描かれた1枚です。

ただ、そのタッチはルノワールとは異なり、光と色彩を突き詰めていますが、その後モネの光へのこだわりは大きく変化。「ジュフォス、夕方の印象」の隣には、その違いが顕著にわかる作品「睡蓮」(1914~1917年)が展示され、「30年後にはこうなるわけですね……」と片桐は感嘆。

「モネといったらこの印象」と片桐が話すように、彼が生涯のモチーフに選んだのが睡蓮でした。45歳の頃から描き始め、トータル200点以上描いたと言われており、これは70歳半ばに描かれたもの。若い頃の「睡蓮」とはその内容が全然違います。それは一面全てが水面ということ。当初は空や太鼓橋などが描かれていましたが、この作品にはそういったものが一切なく、あるのは水面に映り込んだもののみ。それがモネの新しい技法で、「印象としては、こっちのほうが絵として圧倒的に強烈」と片桐。

そしてもう一人、片桐が「印象派の中でも風景の人という印象」と話すのは、“印象派の父”カミーユ・ピサロ。モネよりも10歳年上の彼は印象派のまとめ役として画家たちの活動を支えましたが、「エラニーの教会と農園」(1884年)を見てわかるにそのタッチはルノワール、モネとも異なります。

撫でるようなルノワール、流れるようなモネとは違い、彼は筆跡を残し、塗っていくような荒いタッチが特徴的で、片桐も「線で描いている感じ。派手さはないが安定している」とその印象を語ります。

見たままの印象を繊細に表現した印象派は、パリの美術界に新風をもたらし、大きな注目を集めましたが、一方で時を同じくして、西洋近代美術のもう1つの源流といえる「象徴主義」も存在していました。

◆見えない世界を描く“象徴主義”

見たままの印象を切り取る印象派に対し、象徴主義は目に見えない世界や概念を視覚化。そのなかの1人、モネと同じ歳のオディロン・ルドンはまさに印象派とは正反対の非現実の物語や神話、夢などを描き続けました。代表作「ペガサスにのるミューズ」(1907~1910年)は夢の世界の楽しさや魅力を描き、片桐も「夢と現実との境目がわからない」と目を丸くします。

また、ルドンより14歳年下のギュスターヴ・モローは、神話や聖書をモチーフに空想の世界を自由に表現し続け、66歳のときには国立美術学校の教授に就任。

そこで3人の優れた弟子、アンリ・マティスとアルベール・マルケ、ジョルジュ・ルオーを育てます。彼らが学んだ自由な発想、大胆なタッチは、その後「野獣派」と呼ばれる新しいムーブメントを生み出します。

◆描きたいものを自由に表現、野獣と呼ばれた“フォーヴィズム”

マティスとマルケ、ルオーの3人は、1905年の展覧会に揃って出品。それらは当時の美術界に大きな衝撃を与え、ある評論家が「まるで野獣(フォーヴ)の檻の中にいるようだ」と例えたことで「フォーヴィズム」と呼ばれるように。

例えばマルケの作品「赤い背景の裸婦」(1913年)は、背景の模様が全て繋がっているような感じで、女性のヌード像も既存のものとは異なり、ゴツゴツしたユニークなテイストですが、これがまさにフォーヴ。

古代より美術の基本とされていたヌードを現代の知性で描き、さらには強烈な色彩で心の感じるままに大胆かつ自由に描く、それがフォーヴィズムでした。

一方、モロー最愛の弟子と言われたルオー。群馬県立近代美術館にある彼の作品「秋」(1938年)は、彼がフォーヴィズムからさらに進化した後の作品ですが、野獣派の画家は彼のようにそれぞれ独自の世界を構築します。

なかでもルオーは、多くの作品で宗教世界をモチーフに選び、神聖な神の世界をあえて荒々しいタッチで描きました。また、「分厚い、そして黒い」と片桐の言う通り、彼の特徴は「分厚い絵具の重なり」。描いては削りを繰り返すことでできたその絵肌こそが個性で、その重厚さは大きな見どころです。

さらに、フォーヴィズムのなかでも異彩を放っていたのが、ラウル・デュフィ。代表作「ポール・ヴィヤール博士の家族」(1927~1933年頃)を前に片桐は「この人もフォーヴィズムなんですか!?」と驚きを隠せません。

そんなデュフィの特徴について、片桐は「線のタッチと、このブレているような感じ」と指摘すると、まさにその通りで、一見、野獣派とは違って見えるものの、何でもアリのなかから自らの個性を際立たせていることこそがフォーヴィズムの証。また、片桐が「すごく動きがある」と言うように、デュフィの作品には本人も大好きな音楽を感じる部分があり、さらには色の美しさも独特でした。

色と形を自由自在に操り、描きたいものを素直に表現するフォーヴィズムの画家たち。彼らが20世紀初頭に作った流れは、その後ピカソらのキュビズムとともに、20世紀前半の西洋美術の展開に大きな影響を与えます。そんなフォーヴィズムを片桐は「自由に絵を描くことの始まり、フォーヴィズム。素晴らしい!」と称賛し、鮮やかな個性という名の牙を剥いた芸術の野獣たちに盛大な拍手を贈っていました。

◆「片桐仁のもう1枚」は、オーギュスト・ロダンの「彫刻家とミューズ」

ストーリーに入らなかったものから、どうしても紹介したい1作品をチョイスする「片桐仁のもう1枚」。今回、片桐が選んだのは近代彫刻の父、オーギュスト・ロダンの「彫刻家とミューズ」(1890年)。

座る男性に女神ミューズが覆いかぶさり解け合っているようなこの作品、片桐は「一目でロダンとわかる作風、それが大事」と讃え、「ロダンはとにかくモコモコしている。彼の描く筋肉とおじさん、僕は好きですね」と告白。さらには「このとろけた感じがすごい」、「力強さがいい」、「この無理な姿勢もいいですよね」と絶賛の嵐。

そして、最後はミュージアムショップへ。片桐は「美術館に必ず売っている(僕の)好きなやつ。これを考えた人はすごい」と名画が立体的に楽しめる「アメージングカード」や名画を模したオルゴールを手に楽しんでいました。

※開館状況は、群馬県立近代美術館の公式サイトでご確認ください。

※この番組の記事一覧を見る

<番組概要>
番組名:わたしの芸術劇場
放送日時:毎週土曜 11:30~11:55<TOKYO MX1>、毎週日曜 8:00~8:25<TOKYO MX2>
「エムキャス」でも同時配信
出演者:片桐仁
番組Webサイト:https://s.mxtv.jp/variety/geijutsu_gekijou/

 

この記事が気に入ったら
「TOKYO MX」 公式
Facebookアカウントを
いいね!してね

RELATED ARTICLE関連記事