【震災15年-記憶を備えに-】島しょ部の災害時の“孤立”対策は… 島民自らドローン操縦も
地域・まち - 2026年3月9日 21時00分
東日本大震災の発生から今年で15年となります。TOKYO MXは震災と向き合い、記憶や教訓を未来へつなぐ特集『震災15年-記憶を備えに-』を4回にわたってお伝えします。今回のテーマは『災害時の島しょ地域の“孤立”対策』です。
去年台風の被害を受けた伊豆諸島の八丈島では、台風前後の天候不良で救援物資の到着が遅れたことや、台風により破壊された水源の復旧工事の遅れなどで断水がおよそ1カ月間続くなど、災害時の離島特有の課題が明らかになりました。そして今、島しょ部で対策が急がれているのが「南海トラフ巨大地震」です。巨大地震による津波が島しょ部を襲うとみられ、東京・伊豆諸島では新島(新島村)が最も高い28メートル、次いで神津島(神津島村)が24メートルで、東京都はこの津波によって、島しょ部で最大およそ950人が死亡すると予測しています。最も深刻な被害が見込まれる新島村では、津波が発生した際の避難施設となる「タワー」の整備や、災害時の情報伝達手段として屋外のスピーカーだけでなく屋内用の防災無線の受信機を全戸に配備するなどの対策が進んでいます。ただ、津波などの災害が発生した場合に島しょ地域でもう一つ懸念されるのが「ライフラインの寸断による孤立化」です。新島村で進む、孤立化を防ぐための取り組みを取材しました。
都心から南におよそ160キロの距離にある新島は人口およそ1900人の島で、白い砂浜や透明度の高い海を目当てに、夏には多くの観光客が訪れます。しかしこの島で災害が起きて港や空港が被害を受けた場合、船や航空機といった物資の輸送手段がなくなる恐れがあり、さらに水源や海底通信ケーブルが被災するとライフラインが長期にわたり断絶する可能性もあります。新島村役場の担当者は「(関係機関が)来るまでの数日間、自分たちで復旧に当たらなければならない中、果たしてどこまで自分たちだけでできるのか、改めて課題として感じている」と話します。新島村役場では全島民の3日から5日分の食料や飲料水を備蓄しているほか、企業と連携した取り組みも進めています。村の担当者は「東京電力のソーラーパネル・蓄電池も含め、避難所にソーラーパネルから発電した電力を送り込めるように進めている」と話します。
財源が限られる中、自治体もさまざまな形で対策を進めていますが、専門家は行政任せにするのではなく、島民一人一人の備えが重要だと指摘します。地震・津波リスクに詳しい東北大学災害科学国際研究所の今村文彦教授は「防災の上では、自助・共助、公助が大切。特に自助でしっかり備蓄や備えをすることで、長期に孤立する場合でも対応できる」と指摘します。
家庭での備えを島民・くさや販売店の池村さんに聞いてみると「災害など関係なく、波の影響で船が欠航することが多いので、食品の備蓄は日頃からしている。何かあった時は1週間ぐらいは大丈夫かなという気持ちでいる」と話します。また、池村さんは3年ほど前に電気自動車に買い換えたといいます。電気自動車にしたきっかけについて池村さんは「やはり、災害の時にっていうのは大きい。そこから電気が引けるという安心はある」と話しました。
災害などで停電した場合、蓄えられた電力を家電に供給できる「電気自動車」について、新島では商工会を中心に災害時にも役立つことを島民に伝え、普及を促す取り組みが行われています。これについて今村教授は「長く孤立する可能性が高いので、備蓄やいろいろな備えを十分に用意しておくこと。自立をしておけば対応できる」と評価します。
一人一人が普段の暮らしに備えを取り入れることが「島の孤立」を乗り越える力になるようです。
<災害時 島の“孤立”に備えを 東京都の支援策>
災害時、特に島で懸念される孤立化のリスクにはさまざまなものがあります。去年の八丈島の場合、台風被害として被災しましたが、水源施設が被災し断水したり、一部の島では発電所が津波浸水想定域に立地していることから停電が発生する恐れもあります。こうした要因で孤立化が懸念される島への支援について東京都は、空港やヘリポートなどは高台に設置されているため津波によるリスクは低いとして、発災初期はヘリコプターや航空機を使った支援を行う方針です。また、インターネットが途切れた場合でも通信手段の確保が可能な衛星通信網「スターリンク」を昨年度、都内の全区市町村に配備を終えていて、島で海底光ケーブルが被災をした場合でも被害状況の把握に活用することを想定しています。
さらに、東京都は去年起きた八丈島の台風被害による教訓を今後の支援に生かそうとしています。都の担当者は「(八丈島の被災の際は)物資や資機材の輸送に時間を要したことから、島内での備蓄や保管施設の確保の重要性を改めて認識した」として、災害に備え、島内に物資の輸送の拠点となる防災倉庫を整備するほか、給水車から送られる水を一時的にためられる装置の配備を順次進める方針です。
<島しょ部“孤立化”対策へ 島民自らがドローン操縦>
災害による孤立化を防ぐための新たな取り組みが進んでいるのが、新島からおよそ4キロ離れ、船で15分ほどの距離にある「式根島」です。島の住民らによる、災害時にドローンを活用するプロジェクトが進められています。
周囲を海で囲まれる島で災害が起きた際、支援を受け入れる港や空港に被害がないか迅速に把握する必要がありますが、その際に活用が期待されているのが「ドローン」です。式根島では島の住民たちが機体の開発メーカーと協力し、ドローンを導入するプロジェクトが進められています。
一般的な機体に比べ、飛行時間はおよそ2倍の40分ほど、飛行距離は最長50キロというこのドローンは、被害状況のいち早い把握のほか、島から島へ医療品などの物資の輸送を担います。このドローン操作をするのは住民たち自身です。現在、操縦できるのは訓練を受けた3人で、今後も増やしていく計画です。
ダイビングショップを営む下井さんはドローンの操作に必要な国家資格を取得するため、冬などのオフシーズンに仕事の合間を縫って1年間、専門知識の勉強と操縦の訓練を重ね、筆記と実技の試験に合格しました。下井さんは「災害の時に対応するのではなく、日々常時飛ばせるような体制を整えるのが一番重要だと思う。自分たちで飛ばせればすぐ被害状況を把握できる」と話し「この島が好きで20年前に移住してきた。この島を自分たちの力で守っていかなければいけないというのがあって、それで今動いている」といいます。
式根島から船で15分ほどの新島に住む青沼さんもドローンの操縦を担う1人で、普段はカメラマンの仕事をしています。東日本大震災の翌年、被災地の現状を知ろうと宮城県内を回ったという青沼さんですが、今も強く印象に残っているのが、津波で児童と教職員合わせて84人が犠牲となった石巻市の大川小学校の被害だといいます。青沼さんは「新島の津波被害は、小学校手前ぐらいまで想定されている。もし新島の子どもたちも同じようなことが起きてしまったらと考えるとすごく怖い」と話し、大川小学校と同じ規模という生まれ育った新島の小学校、母校のことを思い出したことが、ふるさとで命を守る活動をするきっかけとなりました。青沼さんは「海は近く日頃遊んでいる場所なので(津波被害の)イメージはつきづらいとは思うが、やはり事前に準備ができたら守れる命もある。僕が今やっているドローン事業で力になれたら」と話します。
そして島で高齢化が進む中、島を出た若者がなかなか戻ってこない現状を踏まえ、この取り組みを次の世代につなげたいと考えています。青沼さんは「(島で)仕事に困っている若者もいるので、新しい仕事としてそういった子たちにもドローンに興味を持ってもらい、一緒にやる。それを持続可能に島の中で循環していくことが僕の目標になっている」と話しています。地域で防災を担い、次の世代へつなぐ島の取り組みが続きます。
<ドローン開発メーカーも連携に意欲>
災害時の被害状況の確認や物資の輸送といった活用を想定しているドローンについて、開発を行うメーカーは現在、機体に乗せられる物資の量を従来の1キロから13キロまで増やすといった改良を進めているということです。また今後、東京都と連携を図り、ドローンによって把握した被害状況を東京都の担当者と迅速に共有する体制づくりを強化していくほか、島民と連携する取り組みを他の島にも展開できればと意気込んでいます。