脱炭素社会の切り札「人工光合成」が描く未来は… CO2からエネルギー生成も
ビジネス - 2025年9月24日 19時00分
脱炭素社会の実現への切り札として、二酸化炭素を減らすことができると期待されている「人工光合成」という技術の研究が進んでいます。研究の現状と課題について取材しました。
「脱炭素」を実現させなければ、地球温暖化はますます進んでしまうといわれています。今年の夏も平均気温が平年と比べて2℃以上高く、気象庁が統計を開始した1898年以降で最も高くなりました。その理由として、火力発電や自動車の使用などで燃料を燃やすことで発生する二酸化炭素をはじめとした温室効果ガスの排出が増えたことでガスの層が厚くなり、宇宙への熱放出が少なくなり、地球上の気温が高くなる「地球温暖化」が指摘されています。2023年度の温室効果ガスの排出量は10億トン以上あり、日本の温室効果ガスの排出については減少は続いているものの、掲げている「2050年までにゼロにする」という目標の達成にはさまざまな技術が必要となります。
こうした中、二酸化炭素を減らすことができるとして期待されるのが「人工光合成」です。光合成は太陽光のエネルギーを使って「水」と「二酸化炭素」から酸素や糖類などを作り出すものですが、脱炭素社会の実現に向け、この反応を応用しようという研究が「人工光合成」です。
植物が行う光合成を応用したこの技術は、水と二酸化炭素から、燃料にも用いられる水素や医薬品などに使われる化学物質などを生成しつつ、二酸化炭素も削減できるため、地球温暖化を改善する切り札として期待されています。
環境省は9月、人工光合成技術の実用化に向けたロードマップを公表し、浅尾環境相もその重要性を訴えます。浅尾大臣は「最終的に二酸化炭素を出すのを減らすのももちろん大事だが、それだけでは少し間に合わないのではないか。そこで、植物がやっているように二酸化炭素をむしろエネルギーをためる材料として使える、要するに二酸化炭素を使うのが地球上で植物以外に人工的にできたらということ。結果として、二酸化炭素濃度を下げることにつながると期待している」「例えて言うならば、日本がエネルギーを産出する国、産油国になるようなものが、この人工光合成技術」と話し、二酸化炭素を削減するだけでなく、エネルギーを生み出すことができる人工光合成に強い期待感を示しました。環境省は来年度=2026年度の概算要求に人工光合成に関する予算を初めて盛り込んでいて、予算額は8億円だということです。
二酸化炭素を“使って”エネルギーを作り出すことができる「人工光合成」が実用化に向けて動き出した中、人工光合成を研究している東京科学大学の前田和彦教授は、環境に負荷をかけずにエネルギーを生み出す未来の姿を描いています。
前田教授は「火力発電所や製鉄所みたいなCO2がたくさん出てくるようなところで人工光合成技術を持ってきて、直接そこで有価物を作る。二酸化炭素から例えば炭化水素類を作ったりするシステムが組めると、より分散型のシステムとして成り立つ可能性がある。今後、期待できるのではないか」と話します。
一方で現時点の課題は「コスト面」だと指摘します。前田教授は「残念ながら、現状では高い効率を示す光触媒、人工光合成に使える材料はことごとく高いもの。コストに見合った性能を今後追求していかなければならない」と話しています。
<人工光合成 どこまで進んだ? メリットと課題は?>
人工光合成技術は、開催中の「大阪・関西万博」でも展示されています。ここでは、太陽光を使ったエネルギー変換を利用した技術です。
現在、光をエネルギーに変える技術として代表的なものは「太陽光パネル」があります。人工光合成との違いを見てみると、太陽光パネルのメリットとしては、発電する際に二酸化炭素を排出しない点や、停電時などに電気として使える点などが挙げられます。一方、太陽光パネルの課題としては、大量の蓄電が難しいことや、送電時にどうしてもロスが出てしまうことなどがあります。
一方、人工光合成のメリットは、二酸化炭素と水から、炭化水素など貯蔵可能な物質を作れて、エネルギーを欲しい時に使うことができる点や、二酸化炭素を排出しないだけでなく「使用する」ため、脱炭素社会の実現に大きく貢献できる点などが挙げられます。課題としては、現状では材料費などのコストがかかり高いことや、実用化までまだ時間がかかるため、興味を持ってくれる若い世代の研究者をいかに育成していくかという点もあります。
環境省が公表した実用化までのロードマップでは、2030年に一部技術の先行利用を開始し、2040年までに燃料などの原料になる物質を量産化していきたいとしています。また、最終的にはSAFなどの航空機燃料や家畜の餌、農作物の肥料なども作り出す想定です。さらにロードマップには「家庭への社会実装イメージ」も示されていて、自宅の屋根などで受けた太陽光エネルギーを使って、水素やエタノールなどの燃料を製造することが想定されています。