練馬区立美術館 建設費高騰で“再整備着工見送り”事業者確保が困難に
文化 - 2025年9月11日 19時00分
東京・練馬区にある美術館の建て替え工事が着工見送りとなりました。
練馬区の中村橋駅周辺は、地域の人でにぎわう商店街があり「美術館のある街」として知られています。この駅から徒歩3分の場所にあるのが、今年開館40年を迎えた練馬区立美術館です。
館内の作品展示に加え、敷地内には動物のオブジェが並ぶなど“開かれた美術館”として親しまれていますが、練馬区は老朽化などの理由から建て替え計画を進めてきました。2023年1月には練馬区の前川燿男区長が「緑の風吹く中でさまざまな文化・芸術を楽しむ街をつくり、練馬の魅力としたい」と話していました。
計画では美術館と周辺施設を解体し、住民とアートが出合う「練馬の新しいシンボル」として複合型の施設を再整備する予定でしたが、現在、美術館の前にある建築計画の看板は、着工予定日の部分にシールが貼られ「未定」となっています。
当初76億円としていた整備費は、建設費の高騰で109億円とおよそ4割増える見込みとなり、練馬区は2026年度に予定していた着工の見送りを決め、議会に報告しました。9月5日の練馬区議会で、前川区長は「本体工事契約の不調のリスクが極めて高く、来年度の着工を見送ることとした」と述べました。
計画の見直しに対し、区民からは「好きな所なので非常に残念。他の自治体でもこのようなことがあると新聞で読んでいたので、仕方ないとは思うが…」(70代男性)という声があった一方で「全然使える状態で古くもなっていないので、どうして建て直すんだろうとずっと思っていた。家族と一緒に来ていたので、できればこのまま残してほしい。(再整備は)撤回してほしい」(50代女性)と話す人もいました。また「2、3年のうちに予算を組み直してほしいが、このご時世で他にも(物価が)上がっている。3年たってさらに上がることもあるので、区民としてなんとも言えない」(70代女性)と話す人もいました。
前川区長は今後の計画について「実現に向け、引き続き市場の動向を注視しながら適切に判断していく」と説明しています。
<施設再整備見送り、他自治体でも 専門家「異常な価格高騰」指摘>
練馬区が区立美術館の周辺一帯を再整備する計画については、費用が倍増する恐れも出ています。
当初の計画では2026年度に着工し、2029年度の再オープンを目指していました。整備費は当初76億円を見込んでいましたが、1.4倍の109億円まで膨らむ試算が出されています。前川区長は「建設業者への調査で、施工が容易で利益率が高いマンションなどを優先的に受注する傾向がある」と話し、区が予定している工期では事業者を確保する見通しが立たないと説明しました。また、8日の区議会の質疑では区の担当者が「費用が当初想定していた2倍以上になる可能性もあると報告を受けている」と言及しています。
公共施設の再開発の見直しは東京都内の他の自治体でも相次いでいて、中野区の「中野サンプラザ」の計画は白紙に、「目黒区民センター」の公募は中断、北区の「北とぴあ」の大規模改修は再検討となっています。
公共政策を専門とする明治大学の市川宏雄名誉教授は「ここ数年で全国的に建設費が過去にないほど高騰している。特に都内では工事の需要が極めて高い。また、自治体の場合は見積もりから着工までの数年の間で費用が高騰し、契約の受注者が当初の価格に合わずに頓挫する事態が相次いでいる。これから数年にわたって似たような事態が続くことが想定される」と指摘しています。