止まらない農家の減少 東京では30年間で半分以下に減少

(ビジネス - 2025年06月04日 19時00分)

農家の減少が止まりません。東京都内の農家の数は1990年にはおよそ2万戸でしたが、30年後の2020年にはおよそ9500戸となり、半分以下となっています。減少の原因としては、担い手の高齢化や後継者の問題、そして相続税の負担のため農地を手放さざるを得ない人が増えたことが挙げられています。さらに農業の現場でも他の職種と変わらず、人手不足の問題が大きくのしかかっています。 <農家の人手不足「植えても収穫できず廃棄」> 東京・瑞穂町で農業を営む近藤隆幸さん(51)は江戸時代から300年以上続く農家に婿入りし、妻とパート従業員8人でキュウリやトマトなどを栽培しています。事業の安定化を図るため従業員数を増やそうと、SNSや農業に特化した求人サイトなどで募集していますが、採用に結び付くことはほとんどなく、人員不足による負担が大きくなっているといいます。近藤さんは「万年人手不足という感じ」と話し「自分が寝る時間を削って働くしかない。自分が全く休めず無理する状況。毎日20時間ぐらい働くことになる」と、深刻な人手不足を訴えます。また、人手不足によって生産した野菜を収穫できず、廃棄することもあるといいます。近藤さんは「多品目を自分たちで販売していく農家は商品が途切れないようにしている。人が1人いなくなると急に商品が出せなくなるが、でも求人を出しても誰も来ない。今季収穫を諦めて捨てるしかないねということもある」と話します。 応募してくれる人を広く集めるため、以前は求人サイトに「興味があれば誰でもできる仕事です」と紹介文を書いていましたが、採用した人が雨の中での作業など農業の厳しい部分に耐え切れず、ほとんど辞めてしまったといいます。近藤さんは「若い子が何人か入って来たが、一気に急に何人も来なくなったこともあった。人を使うことは難しいので、こちら側にもいけなかったところがあると思う」と弱音を漏らします。現在は紹介文を「厳しい壁に直面することもある」に変更して求人募集を行っていますが、応募人数は減ってしまったということです。近藤さんは「分母が少ないから、農業仲間内でも『運でしかない』と話している。いい人が来るか来ないかで本当に仕事が全部変わってしまう」と話しています。 近藤さんは農業に興味を持つ人を増やすために若者向けに講演会や野菜の収穫体験会などを行っていますが、なかなか結果に結び付かず、いまも試行錯誤を続けています。 <農家減少への対策『援農ボランティア』> こうした中、人手不足解消の手段の一つとして注目されているのが『とうきょう援農ボランティア』です。これは東京都の外郭団体が、農家を無償で手助けしてくれる人を集めるものです。新規登録者は年々増えていて、2023年度には2000人を超えました。登録した人の内訳を見てみると、10代から30代の若い世代がおよそ6割を占めています。『とうきょう援農ボランティア』を利用しているあきる野市で農家を営む野村辰也さんは、収穫など人員が必要な時季に援農ボランティアに来てもらっているといいます。野村さんは「閑散期で人手が必要にならない時もある。常時雇用は経費面で難しいので、必要な時にボランティアが来てくれるのはありがたい」と話しています。 参加した人はボランティアの参加証明書をもらえるので、学生が参加した場合、就職活動などで使用することもあるといいます。 <最新技術で人手不足解消「脱・根性農業」へ 誰でも働きやすい環境へ> 人手不足の対策として最新技術を駆使する農家もあります。日野市でトマトなどを栽培する梅村桂さん(34)は、機械による効率化で人手不足の解消に取り組んでいます。 梅村さんは東京都や日野市の補助金制度を活用し、野菜に必要な水分や肥料を自動で調合するおよそ5000万円の農業用設備を8分の1の自己負担で導入しました。梅村さんは「天気などを判断し、必要なだけの水や肥料を送る装置」と説明しつつ「いろいろな環境の項目を、本来は人が一日、ビニールハウスで管理しないといけないが、トータルで1人分ぐらいの働きをこのシステムを使ってやっている」と話し、『脱・根性農業』を掲げ、誰でも働きやすい環境づくりを目指しています。 梅村さんは「体力でどうにかできてしまうことや、頑張ればできることは多いと思うが、無理がある働き方は長く続かないと感じていた。人の負担が軽くて長く農業ができるようにと考えると、自動化や新しいシステムを入れて、誰でも簡単に作業が長く続けられることが大事」と話します。 東京大学農学部出身の梅村さんは、農作物の加工・販売を手がける企業に就職しましたが、自分の農業をやりたいと3年で脱サラし、農家に転身しました。この時に感じたのが“農業の入り口”の狭さでした。梅村さんは「農家の生まれではないけれど農業をやりたい人がすごくいるのに、その人たちを農業界に受け入れる門戸がちょっとまだ狭いなと思う。家業ではない形の農業法人が受け皿になって入り口を作ることで、農業人口を増やせるのでは」といいます。 農業に携わる人を増やすため、2年前に農園の経営を「個人」から「法人」に変更し、現在2人の正社員を抱えています。梅村さんは「まずは入り口のハードルをすごく低くすることが大事かなと思う。普通の仕事の一つとして選択肢と思えるように、働き方・給与・休みなどを一般企業と遜色ないように用意できる経営をしていく」と話しています。 <農業技術の習得…感覚からマニュアルへ 広がる農家の人手不足対策> 他にも人手不足の対策として、梅村さんは「これまで『習うより慣れろ』というような“感覚”で教えられてきた農業技術を今後はマニュアル化して、誰でも農業技術を習得できるようにしていきたい」と話しています。農家の人手不足解消のためには、農業に興味を持っている人以外も“職業の一つ”として考えられるよう、制度や雇用形態などを整えていくことが大切かもしれません。

https://s.mxtv.jp/mxnews/amp/mxnews_46513120.html

続きを読む