「家族代行」サービスの依頼が増加 母親の認知症が悪化し追い込まれ「親の介護できない」

(福祉・教育 - 2025年06月11日 19時00分)

家族の生活を第三者が支援する「家族代行」と呼ばれるサービスがあります。家族代行とは主に高齢者の生活支援を家族の代わりに行ってくれるサービスで、主な業務は買い物や日々の通院などの『生活支援』のほか、介護施設の利用や入院の際に必要な『身元保証』、また『死後』には葬儀や遺品相続などがあります。この「家族代行」で増加している依頼が“親の面倒を見られない”という子どもからの相談です。実際、どのような家族代行の業務が行われているのか現場を取材しました。 東京・渋谷区に事業所を構える一般社団法人LMNは、首都圏を中心に「家族の代行サービス」を運営しています。LMNの遠藤英樹代表理事は「基本的には高齢者のサポートを中心にやってきた。その中でも『おひとりさま』がいたり、家族の問題でどうしてもサポートできないとか、病院の転院先に対して保証人になったり、幅広く対応している」といいます。 依頼者の多くが家族がいない独り身の高齢者だということですが、近年「親の介護ができない」という家族からの依頼も増えているといいます。遠藤さんは「親御さんの面倒を見られないのはそうだが、私たちが関わってからは家族が何もタッチしないというか、全部私たちが家族の代わりにやって、葬儀も納骨も全部やり、家族は一切手を出さないというパターンは増えている」といいます。 家族代行サービスを半年前から利用している40代の女性は、2年前に母親(80代)が認知症になり、当初はできる限り母親を支えようと介護に取り組んできたといいます。利用者の女性は「性格的に母と合わない部分が多かったが、それでも父を亡くして母1人なので、時々は会って食事をしようとか、私の子どもに会わせたり、交流しようとは思っていた」と話します。 しかし認知症の悪化に伴って母親からの暴言が増え、女性は心身共に追い詰められていきました。女性は「私と連絡がつかなくなったりすると職場にも電話をかけてくるようになったり、近くに住んでいるので家の前で待っていたり、いろいろ私の生活に支障が出てしまった。交番や病院から母の行動が原因で連絡が来て、どんどん追い詰められた。『おまえみたいなのは産まなきゃよかった』とも言われ、やってもやっても報われず、嫌になってしまった」と当時を振り返りました。 そんな中、家族代行サービスの存在を知った女性は、本人の同意がなくても医師と家族の判断で母親を入院できるようにする「医療保護入院」の手続きを代行してもらうことを決意しました。女性は「入院させない限り、遠藤さんたちがサポートしてくれても限界がある。後押ししてもらったので連れていく勇気ができた」と語りました。 先月、女性は母親が転院するため、遠藤さんと病院へ向かいました。母親と顔を合わせる必要はなく、遠藤さんが女性に代わって医師に事情を説明し、身元保証人の契約や支払い手続きなどを代行して進めていきます。転院サポートの難しさについて遠藤さんは「受け入れ先が私たちの活動について理解してもらえるかどうかは、行ってみないと分からない。私たちみたいな団体に良い印象を持ってない病院もあるので、第1段階から話していかないといけないので結構大変」と話します。 遠藤さんたちが病院に入って2時間ほどで、病院は母親を受け入れてくれることが決まり、無事に手続きが完了しました。女性は「母と会わずに病院の手続きができるよう、いろいろと手配してもらった。行政に助けを求める時点で結構大変なところまで来てから介護保険の申請をしたり、時間がかかり過ぎてしまった。それを考えると、すぐ相談に乗ってくれて具体的にどうしたらいいのかアドバイスをくれる会社(LMN)を兄に見つけてもらえて本当良かった」と話しました。 単身世帯が増え、共に暮らす家族同士の関係も複雑化する中、遠藤さんは一人一人に合ったサポートがこれからますます必要になってくると話します。遠藤さんは「本当はLMNはあってはいけない団体。ただ、近所に誰が住んでいるか分からない・きょうだいも少なく頼れる人がいないという人もいる。その中で、自分ができないことを相談できる人がいなくなってきているというのはある。(依頼する人、される人を)一人っきりで終わらせるのではなく、寄り添い、きちんと終わることができるようにしていければ一番いいのかなと思う」と話しています。 <多様化する家族の在り方 国の制度に課題も> 国が実施する制度では、介護を必要とする人に費用を給付し、適切なサービスを受けられるようサポートする「介護保険制度」や、高齢者や認知症の人の財産の管理や契約行為を家庭裁判所が選任する後見人が本人の代わりに行う「成年後見制度」などがあります。 しかし、家族社会学が専門の日本女子大学・人間社会学部の永井暁子教授は「国のさまざまな支援策では制度上、血縁関係がある続柄としての家族がいないとサービスが利用しづらかったり、手続きが進まなかったりする問題がある」と指摘しています。そして今後については「多様化する家族の在り方に対し、自分が信頼できる人や心の距離が近い人を公的にも『家族』と認められるような社会を目指すべき」と提言しています。

https://s.mxtv.jp/mxnews/amp/mxnews_46513120.html

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