今後より深刻化する介護業界の人材不足解消の大きな一助…ICT化する現場をレポート

2023.04.18(火)

06:50

TOKYO MX(地上波9ch)朝の報道・情報生番組「堀潤モーニングFLAG」(毎週月~金曜7:00~)。「フラトピ!」のコーナーでは、“介護施設のICT化”についてキャスターの田中陽南が取材しました。

TOKYO MX(地上波9ch)朝の報道・情報生番組「堀潤モーニングFLAG」(毎週月~金曜7:00~)。「フラトピ!」のコーナーでは、“介護施設のICT化”についてキャスターの田中陽南が取材しました。

◆深刻な人材不足に悩む介護業界を救う救世主“ICT”

介護に関わる職員数は、2019年度は約211万人。しかし、2023年度にはそこから22万人、2040年度には69万人増やすことが必要になると言われています。

今回、田中はそんな人材不足問題を解消するかもしれない“ICT(情報通信技術/Information and Communication Technologyの略称)”を活用した介護の現場を取材。

訪れたのは、東京都・世田谷区にある特別養護老人ホーム「砧ホーム」。ここには20人ほどの職員が常駐し、原則65歳以上で認知症などの症状がある人が介護を受けながら暮らしています。

まず田中が案内されたスタッフルームには、大きなモニターが。これは施設利用者がベッドに寝ている状態を示すもので、ベッドの下に設置されたセンサーが心拍や呼吸を感知し、起きているか寝ているかを判断。利用者の睡眠状況がわかります。

特に夜間巡視にあたって有益で、これまでは各部屋に入って巡視しなければいけなかったものの、これがあれば一目で状況が確認でき、巡視の負担軽減につながっています。

また、利用者の部屋には「シルエットセンサ」が設置されていて、利用者がベッドから手を出すとスタッフのスマートフォン端末に「ベッドから落ちそう」、「ベッドからはみ出している」などのアイコンが表示され、ベッド上の様子が映像で確認可能。その映像を観て、その部屋に行くべきか瞬時に判断することができるとともに、利用者の危険な行動を未然に防ぐことができます。

そして、介護の現場で大きな課題となっている“力仕事”も電気を使わずゴムと空気で作る人工筋肉によって腰をサポートする「マッスルスーツ」で解消。

利用者の移動を介助するときなどスタッフの仕事は中腰作業がメインになるため、腰を痛める人も少なくない介護業界。腰痛が原因で離職してしまう人もいるなか、砧ホームでは2017年からマッスルスーツを導入。現在は8台をどの職員も使えるようにしており、スタッフからは「この職場に就いてからマッスルスーツを使っているが、腰が痛くなったことはほとんどない」との言葉が。

また、田中が気になったのはスタッフが常備しているマイクとイヤホン。ここでは職員同士の連絡用にインカムを使用。職員の連携がとてもスムーズになるそうですが、インカムの導入率は全国ではまだ3割程度だとか。

その他にも砧ホームでは利用者の移動を助ける介護リフトや精神的ケアのツールとしてのセラピーロボットなど至る所でICTが活用されています。

◆業務の効率化により長年の問題も解決し、サービスがより向上

砧ホームでは、ICTの活用により業務の効率化が図れただけでなく、介護業界を悩ます“離職率”の問題も解決できたといいます。3年未満の離職率が約64%(2019年度)という介護業界。

しかし、施設長の鈴木さんによると、砧ホームでは2017年に介護ロボット導入して以降に入職した職員は「1人も辞めていない」と話します。離職率が低下したことで「私たちもいつも同じ顔ぶれでコミュニケーションを密に取れるようになるので、サービスの質はどんどん高まっていると実感している」と鈴木さん。結果として、より充実した運営が可能に。

また、ICTの導入は職員の働く環境の変化だけでなく、利用者やその家族にも大きなメリットがあり、「見守りのロボットは事故防止という面があり、眠りのデータを共有することで“見える化”され、安心して入所していただけることにつながっています」と手応えを語ります。

介護業界の人材不足解決には、ICTが広がることが必須。鈴木さんは「介護ロボット導入には導入費用という壁があるが、補助金を有効に活用していくことが大事な要点」と話します。

そして、今後必要なこととして「道具が進化する一方で、私たち使う側も進化していかないといけない。変わることはエネルギーがいることだが、そこを一歩、足を進めて進化していく。道具も進化して、私たちも進化することを大事にしなきゃいけない」と力を込めていました。

◆ゆくゆくは技術の輸出も…産業拡大のためにもより手厚いサポートを

砧ホームの取り組みに、キャスターの堀潤は「素晴らしい!」と拍手。「報告・連絡・相談がうまくいけば、さまざまなサービスが底上げされ、ミスも防げる。デジタルはコミュニケーションのリスクを低減するということが改めてわかった」と感心。

取材した田中は「データによる“見える化”がコミュニケーションにもつながっているなと感じた」とうなずき、「介護人材不足の解決には、『ひとりが長く働けるようになること、(職員の)腰痛を解消するなど、いろいろなロボットを使ったりすることが大切だ』とおっしゃっていた」と現場の声を振り返ります。

課題となるコストに関して、堀は「初期コストはかかるが、その後の採用コスト、訓練にまつわるさまざまなコストなどを考えると、導入時にある程度かかっても長期的に見ればペイできるかなと思ったが、それでもまだ高いようですね」と案じていましたが、事実、ロボットを導入するにはまだまだ高額。そこに補助金があったとしても、それを使うための環境整備、Wi-Fiの設置などは補助金の対象となっていないなど、問題は山積だそうです。

インスタメディア「NO YOUTH NO JAPAN」代表の能條桃子さんは、介護業界でICT化がさらに広がることを期待しつつ、「きっと今後需要が増えてくる産業であり、こうした技術は輸出もできるので、行政もどんどん導入コストを下げるような方向に進めば」と望みます。

臨床心理士のみたらし加奈さんは「介護業界では、ICTがこんなにも広まっていなかったのかという驚きが大きい」と感想を口にします。というのも、みたらしさんが働いていた精神神経科の病棟では、電子カルテはもちろん、部屋ごとに管理するなど、早くからICT化がなされていたから。

「ICT化することで働く側が助かる部分もあるし、利用者も安全に利用できる」とメリットに触れつつ、「感情労働が伴う対人援助職はやさしさや温もりを過剰に要求されやすい。そのため、ICT化することによって温かみがなくなってしまうなど、人と人との関係性の話に持っていかれやすいが、実はそんなことはなく、(ICT化などテクノロジーに)任せられるところは任せていかないと(スタッフの)感情コストが大きくなってしまう」と懸念します。

みたらしさんの意見に、堀は「コミュニケーションのあり方を見ると、デジタルを導入することで全体が把握できるから人の最適配置ができ、それができることはきめ細かく利用者のニーズに応えられる。それはやさしさという言葉にも置き換えられ、安心感を生み出すことができる。データは利害関係を調整する、すごくいい取り組みだと思う」と同意。

アフリカの紛争問題を研究する東大院生の阿部将貴さんは離職率に関して「ICTを導入したから離職者がゼロになったと言っていたが、他にもいろいろな努力があったのではないかと思う」と施設の取り組みに興味を示しつつ、各部屋にセンサーをつけることなどについて「(どう感じているのか)利用者の声も合わせて聞いてみたい」とも。

また、番組Twitterには、視聴者から「IT、ロボットにはメンテナンスが必要だが、メンテナンスする人も人手不足」、「ICTどんどんお願い。まずは高級な先端施設に入れる人からでしょうが、とりあえず介護の人が大変だから、親族が施設でどうにかなったとしても感染症を含めて担当者を責めたり、恨んだりするモンスターにならないようにしよう」など、さまざまな意見が。

総じて堀は「介護の現場は、非常にコミュニケーションが難しい。そうしたなか、砧ホームが取り上げられるということは、その他の施設がまだまだ医療業界に比べると進んでいなかったということ」と指摘。これに田中も「インカムですら全国での導入は3割程度ということなので、もっと導入、補助金も進んでほしい」と熱望していました。

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<番組概要>
番組名:堀潤モーニングFLAG
放送日時:毎週月~金曜 7:00~8:30 「エムキャス」でも同時配信
キャスター:堀潤(ジャーナリスト)、豊崎由里絵、田中陽南(TOKYO MX)
番組Webサイト:https://s.mxtv.jp/variety/morning_flag/
番組Twitter:@morning_flag
番組Instagram:@morning_flag

 

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