「感じたいように感じればいい…」片桐仁が東京都現代美術館でアートの醍醐味を再確認

2023.02.04(土)

11:50

TOKYO MX(地上波9ch)のアート番組「わたしの芸術劇場」(毎週金曜日 21:25~)。この番組は多摩美術大学卒で芸術家としても活躍する俳優・片桐仁が美術館を“アートを体験できる劇場”と捉え、独自の視点から作品の楽しみ方を紹介します。2022年10月7日(金)の放送では、東京都現代美術館で現代アートを堪能しました。

TOKYO MX(地上波9ch)のアート番組「わたしの芸術劇場」(毎週金曜日 21:25~)。この番組は多摩美術大学卒で芸術家としても活躍する俳優・片桐仁が美術館を“アートを体験できる劇場”と捉え、独自の視点から作品の楽しみ方を紹介します。2022年10月7日(金)の放送では、東京都現代美術館で現代アートを堪能しました。

◆現代美術の転換期1960年代はアートも混沌

今回の舞台は、東京都・江東区にある東京都現代美術館。ここは1995年に東京都美術館から約3,000点の所蔵品を引き継ぎ、開館。近代から現代に至るまで約5,500点の作品を所蔵しています。

そんな同館で開催されていたのが「MOTコレクション コレクションを巻き戻す 2nd」。2020年に行った企画展の続編で、前回は明治時代から1950年代までの作品でしたが、今回は1960年代から1990年代までの日本の現代アートにフォーカス。学芸員の水田有子さん案内のもと、館内を巡ります。

まずは日本の戦後美術の転換期となる1960年代の作品から。田部光子の「プラカード」(1961年)は5点あるうちの3点を当館で収蔵しています。

作品を一目見た片桐は「この頃は、コラージュやいわゆる絵の具以外の材料を使うのが流行っていたんですかね」と分析。まさにその通りで、ウイッグや雑誌などが使用されており、注目すべきはその支持体。特注の襖の上にさまざまなものがコラージュされています。

1960年代は、絵の具でキャンバスに描く従来の絵画以外にさまざまな素材を自由に使って制作する作品が増加。そして、世も激動の時代。安保闘争や労働運動が盛んで、そこに田部も参加していたそうですが、そうしたなかで制作されたのが本作。タイトルの「プラカード」はまさに労働運動で使われる代物です。

また、当時はアフリカ大陸でコンゴ共和国が独立した直後で、本作はよく見るとアフリカ大陸の形に。そうした社会的なテーマも織り込まれ、片桐は「エネルギーがほとばしっていますね。60年前って感じではないですよね」と感心。色の使い方などちょっとポップな感覚もまた興味深い作品となっています。

続いての作品は、中西夏之の「洗濯バサミは攪拌行動を主張する」(1963年)。これは戦後開催されていた展覧会「読売アンデパンダン展」出品作で、そこはいらなくなったものや日用品を使い、従来の美術作品を覆す“反芸術”的な作品が多く集う舞台でした。

本作はキャンバスに絵の具を置くように洗濯バサミが配置され、それがまさに蠢いているような感じで、離れて見ると洗濯バサミが渦を巻き、攪拌されているようにも。当時は東京オリンピックが開催され、アートも美術館の外へと飛び出し、アーティストが屋外でパフォーマンスすることが増えた時代。中西もまた自らに洗濯バサミをつけた異様な出で立ちで街中に現れたこともあったそうです。

片桐が「屏風絵ではないけれど、2.5次元みたいな感覚ですね」と評していたのは、高松次郎の「扉の影」(1968年)。これは影を描いた作品で、展示の仕方によってさまざまな見え方がしますが、影とは本来、実態があって成せるもの。しかし、本作は影だけが存在し“不在”という感覚を浮かび上がらせる作品となっています。

◆歴史に名を刻む巨匠が台頭した1970~80年代

激動の時代と歩調を合わせるように独創的な作品が誕生した60年代に続いては、70年代から80年代。ここでは、東京都現代美術館となってから個展を開催した作家に焦点を当て展示しています。

まずは、当館で国内女性作家として最初に個展を開催(1999年)し、片桐が「一番有名な日本人作家と言っても過言ではない」と語る巨匠・草間彌生の「かぼちゃととかげの思い出」(1975)年。

草間は1950年代後半に渡米し、前衛的な作品で注目を集めましたが、1973年に心身の調子を崩し、帰国。当時は草間の父、さらには親交が深かった作家ジョセフ・コーネルを失うなど不幸が続き、その後、死のイメージを取り入れたコラージュ作品を数多く制作。これはそのなかの1点で、草間ならではの増殖するイメージ、トレードマークである水玉に重なる印象が見て取れます。

次に鑑賞したのは、東京都現代美術館で2度個展を開催したことがある横尾忠則の「滝」(1982年)。

彼の特徴のひとつに、同じテーマを繰り返し描くことが挙げられますが、本作がまさにそれ。横尾は滝の絵を描くことを夢に見たことで繰り返し描くようになったそようで、片桐は「面白いですよね。時代を超えて70年代の絵を90年代、2000年代に描いてたりしていて」と感慨深そうに語ります。

彼は1960年代からグラフィックデザイナー、イラストレーターとして活躍するものの、1980年にニューヨークの近代美術館で開催された「ピカソ展」を見て一念発起。“画家宣言”を行い画家の道へ。これはその直後に描かれたもので、80年代にはこうした色鮮やかな作品が増加。それまでは反芸術の流れもあったことから“絵画の復権”などと呼ばれました。

◆時間・記憶・物語を内包した1990年代のアート

最後は1990年代。写真家・石内都の「1906 to the skin」(1991-93年)を前に、片桐は「お年寄りの方の肌のドアップという感じですよね」と率直な印象を語ります。

これは当時85歳の舞踏家・大野一雄さんの皮膚を拡大したもの。彼が1906年生まれなので、こうしたタイトルになったそうです。

その皮膚にはシワやシミが刻まれ、それもある意味では時間や経験といった目に見えないものを映し出しているような作品で、片桐は「これが半世紀以上踊ってきた人の体なんですね」と見入ります。水田さんによると、この作品の撮影時、大野さんはその場で踊り出し、石内はその踊る姿をカメラに収めたとか。そんな逸話を聞き「大野さんのすごいところをどう見せるかというときに、もちろん踊りを見てもらうことが一番ですが、実はその体に刻まれているものを見てほしいというような熱を感じます」と思いを巡らせる片桐。

1970年代は作品の要素を削ぎ落とした表現が数多く見られましたが、この頃になるとその反動のように時間や記憶、物語性を含む作品が数多く生まれました。

そして、最後は「こ、これは何ですか?」と片桐が驚いていたのは、遠藤利克の「泉」(1991年)。

真ん中が空洞になっている大木が展示されており、そのタイトルを聞き「泉? 巨大煉炭じゃないんですか?」と片桐はさらにビックリ。遠藤は木や水といった根源的な要素を取り込み制作するなか、本作は水が湧き出てくるようなイメージで、世界の目に見えない構造を表現するすために作ったと本人は語っているそう。これに片桐は「今、目に見えているものを通して、目に見えないものを再現しようとしているんですね」と共感しつつ「でも、これはめちゃくちゃデカいですよ」とも。実際、その長さは20メートルにも及びます。

また、これは単純に空洞化させただけでなくわざわざ炭化させています。撮影された制作過程を見てみると、見事に木が炎に包まれており、そこで湧き上がる火もまた作品の一部だとか。「これ自体も作品ですが、作るまでの過程も作品の一部というか、パフォーマンスというか」と片桐は本作に思いを馳せていました。

東京都現代美術館で1960年代から90年代まで30年分の現代美術を堪能した片桐は「70年代にはただ絵を描くのではなく、むしろ描かない文化があったと思ったら、その後もう一度揺り戻しがあった。アートとは何か難しく考えるといくらでも考えられるんですけど、やはり感じたいように感じればいいと思いましたね。面白かったです」と感想を述べ、「戦後の現代アートを楽しませてくれた東京都現代美術館、素晴らしい!」と絶賛。自由な発想で現代アートを牽引した、才能溢れる芸術家たちに拍手を贈っていました。

◆今日のアンコールは、河原温による1975年の作品

東京都現代美術館の展示作品のなかで、今回のストーリーに入らなかったもののなかから学芸員の水田さんがぜひ見てほしい作品を紹介する「今日のアンコール」。水田さんが選んだのは、河原温の「岡崎和郎氏に送られた83通の絵葉書『I GOT UP』(1968-1979)より」(1975年)です。

1960年代後半からニューヨークを拠点に活動し、コンセプチュアルアートの先駆者として知られる河原温の作品ですが、これは彼が実際に送ったエアメール(ハガキ)。しかも、よく見ると“I GOT UP AT ○○”とその日彼が起床した時間が刻印されています。彼は世界各地で活動するなか、11年に渡ってさまざまな人にこのハガキを送り続けていたそう。それも全てスタンプで時間が記され、匿名性が高いように思えますが、ある意味では作家自身の存在証明にも。

水田さんは毎日同じ行為を重ねていくところに面白みを感じ「今の私たちにも何か語りかけてくることがある作品かなと」と話すと、片桐は「それがわかった瞬間ゾワッとしますけどね」と感想を口にしていました。

最後はミュージアムショップへ。販売されているグッズの多くに“MOT(Museum of Contemporary Art Tokyo)”という文字・ロゴが描かれており、なかでも片桐が気になったのは、そのロゴが刻まれたアクリルのキーホルダー。「何色あるんですか?めちゃくちゃ色数がある」と驚いていたこちらの商品は、端材を使っているため、入荷時によってそれぞれ色や形などが異なるそう。

また、東京都現代美術館で過去に行われた企画展のグッズもたくさんあり、片桐はクリスチャン・マークレーやマーク・マンダースのトートバッグなどを嬉しそうに物色。さまざまな商品を取り揃えたミュージアムショップに「ここは無料で入れますし、ここを見るだけでも相当楽しいと思います!」とご満悦の片桐でした。

※開館状況は、東京都現代美術館の公式サイトでご確認ください。

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<番組概要>
番組名:わたしの芸術劇場
放送日時:毎週金曜 21:25~21:54、毎週日曜 12:00~12:25<TOKYO MX1>、毎週日曜 8:00~8:25<TOKYO MX2>
「エムキャス」でも同時配信
出演者:片桐仁
番組Webサイト:https://s.mxtv.jp/variety/geijutsu_gekijou/

 

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