ジュエリー、ガラス工芸界に燦然と輝くルネ・ラリックの珠玉の作品群に片桐仁が歓喜

2023.01.28(土)

11:50

TOKYO MX(地上波9ch)のアート番組「わたしの芸術劇場」(毎週金曜日 21:25~)。この番組は多摩美術大学卒で芸術家としても活躍する俳優・片桐仁が美術館を“アートを体験できる劇場”と捉え、独自の視点から作品の楽しみ方を紹介します。2022年9月30日(金)の放送では、「箱根ラリック美術館」に伺いました。

TOKYO MX(地上波9ch)のアート番組「わたしの芸術劇場」(毎週金曜日 21:25~)。この番組は多摩美術大学卒で芸術家としても活躍する俳優・片桐仁が美術館を“アートを体験できる劇場”と捉え、独自の視点から作品の楽しみ方を紹介します。2022年9月30日(金)の放送では、「箱根ラリック美術館」に伺いました。

◆業界の概念を変え大成したジュエリー作家時代

今回の舞台は、神奈川県・箱根仙石原にある箱根ラリック美術館。ここはジュエリー作家、ガラス工芸家として知られ、クリスタルガラスブランド「LALIQUE」の創業者でもあるルネ・ラリックの作品に出会える美術館で、2005年に開館。彼が愛した自然とアートが響き合い、極上の空間を生み出しています。

ラリックは19世紀末から20世紀前半にかけて活躍した、フランスを代表するジュエリーとガラスの工芸家。若い頃は、カルティエやブシュロンといったトップブランドのジュエリーデザインを手がけ、フランスの大女優をはじめとする多くのファンを持ち、ジュエリー作家として大成したラリックですが、50代になるとガラス工芸家に転身。

今回は学芸員の林田早代さんの案内のもと、なぜ彼は大きく方向転換したのか探りつつ、芸術作品と美を取り入れた日用品、その両方を極めたアーティストの半生に迫ります。

1860年、フランスの小さな村に生まれたラリックは、16歳でジュエリー作家の道へ。パリでアトリエを構え、一流宝飾店のデザインを手がけながら一点ものの作品を制作するようになります。そうしたなか、彼が30代後半に制作した「ペンダント『白鳥』」(1897~1899年頃)から鑑賞。

白鳥の羽1枚1枚が金属の素地にガラス質の釉を焼き付けて装飾する技法“七宝(しっぽう)”で作られたとても精緻な作品で、片桐は「もはや1ミリとかの世界、もっと小さいかもしれない…これはすごいな」と唸ります。

当時のジュエリーは、ダイヤモンドやルビーなど貴石と呼ばれる高価な宝石の量が重要で、“宝石の価値=ジュエリーの価値”でした。しかし、ラリックが目指したのは、高価な宝石に頼ることなく、デザインに価値を見出し、斬新で独創的なデザインや技術で勝負すること。それだけに彼は当時あまり使われることがなかったガラスなどの素材を繊細に加工するなど、デザインと技術で新たなジュエリーを生み出していました。

続いての作品は、林田さんが「『箱根ラリック美術館』で一番ご覧いただきたい作品」と語る「ブローチ『シルフィード(風の精)あるいは羽のあるシレーヌ』」(1897~1899年頃)。

こちらはダイヤモンドを使用した作品ながら、七宝が主役でダイヤモンドは脇役。ステンドグラスのように色が透けて見える“透胎七宝(プリカジュール)”という技法が使われており、蝶の羽の透明感を見事に表現しています。

そして、中央に2人の女性の横顔、さらに6羽のツバメが配置された「ブローチ『ツバメと少女の横顔』」(1898~1900年頃)にはあるメッセージが込められているとか。

このジュエリーの裏側には、金のプレートが埋め込まれ、フランス語で「さようなら。いつかまた(Au Revoir)」を意味する言葉が。これはツバメが季節を巡るたびにまた同じところに戻ってくるという習性にちなみ「また季節が巡っても、きっとあなたの元に戻ってくる」という意味が込められているそう。なお、このジュエリーが制作された1900年はパリで万博が開催。そのジュエリー部門でラリックは見事グランプリを獲得しています。

◆一点もののから量産型へ…なぜラリックは転身したのか

40歳にしてジュエリー作家として頂点を極めたラリックでしたが、その後彼は方向転換し、49歳のときには量産を目的とした「香水瓶『シクラメン』コティ社」(1909年)を制作。

それまで手がけていた一点もののジュエリーから時代の流れに合わせ、より多くの人に作品を楽しんでもらいたいと、型で量産できるガラスの道へと歩み始めます。

その香水瓶を一目見た片桐は「羽の生えた女性が各面にいて、金属のプレートが付いていてオシャレですね~」と見入ります。

当時の香水瓶といえば、どれも味気ないものばかり。そうしたなかで彼は妖精がシクラメンの香りを嗅いでいるところ描き、中身の香りが想像できるようなデザインを施しました。彼が目指したのは日常を豊かにするデザインで、ラリック自身「芸術家が美しいものを見つけたら、それをできるだけ大勢の人々に楽しんでもらうことを追求しなければならない」という言葉を遺しています。

そして、彼がジュエリー作家からガラス工芸家へと転身を遂げた年に制作された作品が「香水瓶『四つの太陽』」(1912年)です。

ガラスパネルのなかが光って見える面白い作りになっており、光を遮ると香水瓶自体の明かりも落ちて真っ暗に。

その仕組みはレリーフの後ろ側に入れられた鏡が周囲の明かりを集め、香水瓶を光らせるというもので、それを聞いた片桐は「すごい仕掛けですね! これは当時の人もビックリしたでしょうね」と驚嘆。

ラリックは熱心にガラスを研究し、ガラス製造に関する特許を多数取得。質に加え、芸術性の高い作品作りにこだわり、香水瓶のほかにもさまざまなガラス製品を制作。花瓶や照明作品、そして当時の車にあったラジエーターキャップに装着する装着品カーマスコットも数多く手がけました。

とりわけ、当時スチール製や真鍮製が主流だったところをガラスで作ったカーマスコットは爆発的な人気を獲得。ラリックのカーマスコットは価値も高く、当時のオーナーは車から離れるときは取り外し、カバンのなかに入れて持ち運んでいたと言われているとか。そんなカーマスコットの数々に片桐は「絶妙にツヤとツヤ消しを使い分けてますね。これはたまらない」と感心しつつ、「ものすごくこだわりを感じますね。素材はガラスのみですけど、男らしいデザインだけど、繊細さがすごいですね」と感動します。

◆ラリックが行き着いた人の生活を豊かにする作品

箱根ラリック美術館で昨年開催していた企画展「明日への祈り展 ラリックと戦禍の時代」では、意外な作品が。片桐も「今までとはちょっと感じが違いますね」と語るその作品は「メダル『戦争孤児の日』」(1915年)。これは第一次世界大戦時に催された「戦争孤児の日」というチャリティイベント用に制作されたもので、その売り上げは戦争で犠牲になった兵士の子どもたちへと寄付されました。

そこに描かれているのは、しゃがみ込んで身をかがめ、裸の子どもたち2人を守ろうと手を回して抱き抱えている女性。これはイベントの顔になり、フラッグピンやポストカードとなって販売され、全ての売り上げを苦難の日々を送る人々に届けられました。そして、ほかにも「兵隊さんの日」「結核患者の日」など、さまざまなチャリティイベント用のモノづくりにラリックはその才能を発揮します。

さらに、70歳のときには「ランプ『キリスト』」(1930年)を制作。ラリックは晩年、教会の装飾を手がけるようになると、作品のなかにはキリスト像や聖母マリア、祈る天使の姿などが多く描かれるようになります。

彼は1926年に初めて教会の装飾に携わり、以降、数多くの教会の装飾を手がけてきました。そのなかでも最高傑作と言われているのが、1934年に手がけたイギリス・ジャージー島の「聖マタイ教会」です。

クリアガラスを全面に使い、3メートルを超えるユリの十字架をはじめ洗礼台や花瓶、ドア、さらには天使の像もガラス製。無色透明なガラスを全面に用いた静謐な空間を作り上げました。

1945年、85年の生涯に幕を下ろしたラリックの墓標には、彼が手がけたランプのキリストと同じデザインのパネルが嵌め込まれています。

ラリックの作品をたっぷりと堪能した片桐は、「(ラリックの作品は)好きですね~。最初の細かいジュエリーの造形いいですね」と満面の笑みを浮かべつつ、「そこから時代の移り変わりとともにガラス作家になり、戦争を挟んで、教会、戦争孤児のためのものや、世の中の助けになっていくものを作っていく、ラリックの人生を、作品を通して見た気がしました」と感想を語ります。そして、「お金持ちだけでなく、全ての人の心を豊かにしたラリック、素晴らしい!」と称賛し、多くの人にやさしい美を届けた芸術家に拍手を贈っていました。

◆今日のアンコールは、「室内装飾『パキャン邸ダイニングルームの噴水』」

箱根ラリック美術館の展示作品のなかで、今回のストーリーに入らなかったもののなかから学芸員の林田さんがぜひ見てほしい作品を紹介する「今日のアンコール」。林田さんが選んだのは「室内装飾『パキャン邸ダイニングルームの噴水』」(1931年)です。

これは女性ファッションデザイナー、ジャンヌ・パキャンの邸宅を彩った作品で、アーチも含め、全てラリックがデザイン。ダイニングにふさわしい果物の大小のパネルが嵌め込まれています。そこには面白い仕掛けが。ガラスの裏側には銀が貼られ、光が当たったときに空間を輝かせる鏡面加工という技法が施され、見る時間帯や角度によって光る場所が異なる仕様に。そんな変化が楽しめる作品を、片桐も興味深く眺めていました。

最後はミュージアムショップへ。ここは雑貨店もかねているため「広さは過去最大級ですね」と片桐。クリアファイルが豊富で「すごいクリアファイルの品揃え!」と驚きつつ、当時ラリックが領収書として使用していたデザインがそのまま使われた便箋にも興味津々。

なお、そこには当時ラリックが住んでいた住所もデザインの一部として記されています。さらにはラリックが好んだツバメがモチーフとなった手拭いやアクセサリーなど、さまざまなグッズに目を輝かせる片桐。最後には「とにかく現場を見てほしいですね。小さいんですよ。そのなかに細かい細工がされてますから」と視聴者にメッセージを送っていました。

※開館状況は、箱根ラリック美術館の公式サイトでご確認ください。

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<番組概要>
番組名:わたしの芸術劇場
放送日時:毎週金曜 21:25~21:54、毎週日曜 12:00~12:25<TOKYO MX1>、毎週日曜 8:00~8:25<TOKYO MX2>
「エムキャス」でも同時配信
出演者:片桐仁
番組Webサイト:https://s.mxtv.jp/variety/geijutsu_gekijou/

 

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