女性が描かれた名画の数々…その裏にある多くのドラマを片桐仁が妄想

2022.04.16(土)

11:50

TOKYO MX(地上波9ch)のアート番組「わたしの芸術劇場」(毎週金曜日 21:25~)。この番組は多摩美術大学卒で芸術家としても活躍する俳優・片桐仁が、美術館を“アートを体験できる劇場”と捉え、独自の視点から作品の楽しみ方を紹介します。1月22日(土)の放送では、「北野美術館」で女性が描かれた名画を堪能しました。

TOKYO MX(地上波9ch)のアート番組「わたしの芸術劇場」(毎週金曜日 21:25~)。この番組は多摩美術大学卒で芸術家としても活躍する俳優・片桐仁が、美術館を“アートを体験できる劇場”と捉え、独自の視点から作品の楽しみ方を紹介します。1月22日(土)の放送では、「北野美術館」で女性が描かれた名画を堪能しました。

◆さまざまなドラマを内包…女性を描いた名画の数々

今回の舞台は、長野県・長野市にある北野美術館。ここは地元の建設会社・北野建設の創業者である北野吉登氏のコレクションをもとに1968年に開館。日本画・西洋画・彫刻・書・工芸など18世紀から20世紀の作品を中心に、近代美術史上貴重な作品も数多く所蔵しています。そんな北野美術館で、この日は女性を描いた名画を中心に鑑賞。

同館の学芸員・小林尚子さんの案内のもと、まずは昭和期の作庭家で日本庭園史研究の第一人者・重森三玲による「枯山水庭園」(1965年)で眼福にあずかります。「美術館の庭であるということはひとつの美術作品」と小林さん。

そして、館内に入り最初に注目したのは、イタリアの画家ノエ・ボルディニョンの「軽い訪問」(19世紀後半)。

綺麗な洋服を着ている女性が描かれた本作。女性たちは一見貴族のように見えるものの、その前には作りかけの洋服や針刺しなどがあり、仕立屋に雇われた衣服などを裁縫する「針子」を彷彿。

そして、この舞台となっているイタリア・ベネチアは絹織物が有名な街で、そこにも洋服との親和性が。さまざまな意味合いが込められた重層的な作品に、片桐は「物語的に見ても面白いけれど、そうした背景を細々見ても、その時代の感じがわかるというか……」と思いを巡らせます。

一方、アメリカの画家ジョージ・チャールズ・エイドの「ジャパニーズ・プリント」(20世紀初頭頃)には、“ジャパニーズ・プリント=浮世絵”を鑑賞する女性が描かれています。

当時、西洋の芸術家たちの間では日本文化を愛好する“ジャポニスム”がブームに。その発端となったのが1867年のパリ万博で、そこで日本文化が紹介され世界中で注目を集め、なかでも浮世絵は印象派や新印象派の画家たちに大きな影響を与え、さまざまな日本の文化が海外で受け入れられました。

続いては、バレリーナをパステルで描き続けたフランス人画家ピエール・カリエ=ベルーズの「踊り子」(1894年)。“バレリーナ”と“パステル”の組み合わせといえば、エドガー・ドガが有名ですが、ベルーズもドガと同時代に活躍した画家で、彼らは粉末の顔料を固めた画材パステルを使った新たな表現法を模索しました。

片桐は「肌の質感や(衣装の)半透明の生地感とか上手に表現されていますね」と感心していましたが、そんな本作にもさまざまな物語が。まずは踊り子がちょっと上気していますがそれは踊り終わった後なのか、それとも他に何かがあったのか。また、踊り子の美しさに目を奪われがちですが、地面にはブルーの手紙が。

片桐は「手紙を落としたのか、捨てたのか。踊る前に読んだかもしれないし、踊り終わった後なのかもしれない。もしかしたら、その中身が郷里の両親からの手紙で帰ってこいってことで、帰りたくないのかとか……見る方の解釈次第ですね」と妄想していたように、見る人によって実にさまざまなドラマを感じさせる作品となっています。

そして、マリー・ローランサンの「犬を連れた婦人と少女」(1931年)。彼女は当時、志を持った若い画家が募った「洗濯船(バトー・ラヴォワール)」で研鑽を積み、そこではピカソやブラックなどに指導されたことも。しかし、彼女はキュビスムだけに傾倒することなく、やさしい色使いで穏やかな女性たちを数多く描き、独自の作風を確立。日本でも多くのファンから愛されています。

◆日本人画家が描くアジア、さらにはヨーロッパ

19世紀~20世紀にかけて多くの日本人画家が西洋画を学び、魅力的な女性を数多く描いていますが、それらを見る前に、まずは日本人画家による風景画を見ていきます。そのひとつが和田三造の「南洋風景」(1919年)。

和田は、東京美術学校卒業後にヨーロッパに留学。そして、その帰りがけに勝手に留学期間を延ばし、インドやジャワ島などに滞在、本作はそこでの影響を大きく受けたもので、とりわけ空の色が印象的。片桐も「空がちょっと紫色っぽい感じで、雲もオレンジで……」と感想を呟きます。

和田はこのアジアでの経験が分岐点となり、西洋画以外でも才能を発揮し、映画の衣装デザインなど多方面で活躍しました。

一方、日本画家・速水御舟がヨーロッパを巡った際のスケッチをもとに描いた作品が「ポンテ・ベッキヨ」(1931年)。これはその名の通り、イタリア・フィレンツェに流れるアルノ川に架かるベッキヨ橋がモチーフ。

彼は大変真面目な性格で、元来緊張感のある日本画を描いていましたが、「これはかわいらしい絵ですね。肩の力が抜けているというか」と片桐が語るように、既存のものとはかなり趣が異なる作品に。というのも、ヨーロッパでの体験が自分らしさを再発見するとても良い契機になったから。それを聞いた片桐は「頭でっかちになっていたり、視野が狭くなっていたときに、こういうところに行ってスケッチしたりして解放されたりするんでしょうね」と感慨深そうに語ります。

◆日本人画家による西洋画に描かれた日本の女性たち

最後は日本人画家による個性あふれる女性画を鑑賞。まずは、前田寛治の「裸婦」(1927年)。片桐は「このモデルは日本の方ですよね……」と不思議そうに眺めていましたが、なんと描かれているのは“ブルースの女王”と言われた淡谷のり子さん。これには「えっ! 若いときにヌードモデルをやっていたことは聞いたことがありますが」とビックリ。

前田は、フランスで絵画を学び、帰国後は日本でも屈指の売れっ子画家となりますが、当時、海外のモデルと日本人モデルの体型の違いに驚愕。そして、それまで日本の女性を芸術的な“美”として描かれていなかったことに気づき、自分がそのパイオニアになろうと奮闘するも、本作を描いてすぐ、33歳という若さで亡くなってしまいます。

また、片桐が「これはルノワール感がありますね」と評し、「この着物の描き方とか相当細かい、バラの花や葉っぱも1枚1枚描いていますもんね……」と目を見張っていたのは、洋画家・山下新太郎の「姉妹」(1937年)。

これは、山下が実の娘2人を描いた作品で、片桐の言う通り、彼はルノワールから強い影響を受けています。

というのも、パリ留学時、彼がルノワールのアトリエを訪問した際に、なんと本人に邂逅。そして、「画は腕で描くものではない。眼で見るものだから、自然から得た感じを充分に現はせば善い。決して絵を描き崩すと云ふ様なことを心配せずに遣れるだけ遣るが宜い。自分の感じを充分にさせるまで遣るが宜い」と金言を授けられたとか。

そのエピソードに、片桐は「そんなことを言ってもらった日本人画家っていないんじゃないですかね。直接会えただけでもすごいのに」と驚きを隠せません。

しかし、そんな山下にも帰国後に大きな葛藤が。パリとは何もかも違う日本で何を描くべきか悩み、苦しみます。そんな折、友人の画家から、ドイツ人の血が混じった美しい奥さんや息子、娘、さらには家や庭など身近にある素敵なものを描くべきとアドバイスを受け奮起。そうして陽光のもとで輝く家族を描いたそうです。

女性がモチーフとなった国内外の多くの名画を鑑賞した片桐は「外国の絵は、やはり外国の良さというか、西洋美術の歴史というか、その時代での良さがあって、(日本でも)明治時代になると日本の芸術家たちがパリやヨーロッパへ行って勉強し、日本の中で日本人の日本の洋画を描くべく試行錯誤している、その感じがいいですよね」と近代美術の流れに改めて感嘆。

そして、「女性の美しさを表現しようとした西洋の画家たち、その西洋の技術を日本に受け入れようと切磋琢磨した日本の画家たち、素晴らしい!」と称賛し、女性の美しさを追求した画家たちに拍手を贈っていました。

◆今日のアンコールは、木村荘八の「牛肉店帳場」

北野美術館の展示作品のなかで、今回のストーリーに入らなかったものからどうしても見てもらいたい作品を紹介する「今日のアンコール」。片桐が選んだのは、木村荘八の「牛肉店帳場」(1932年)。

これは木村の父親が経営しているすき焼き店の玄関口を描いたもので、「中居さんがお酒を持って階段を上がったり、降りたりしていて、このピカピカの玄関がいいですよね」と片桐。さらには、「(描かれている)一人ひとりにストーリーがあって、熱量というか空気感が素敵」と見入っていました。

最後はミュージアムショップへ。この日鑑賞した作品の数々が、さまざまなグッズになっていましたが、そのなかで片桐の目に留まったのは複製となった色紙。さらには、カラフルな亀の置物「カラフルカメ」を見つけると「これはたまらないですね。全色買いたいと思います!」と大興奮の片桐でした。

※開館状況は、北野美術館の公式サイトでご確認ください。

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<番組概要>
番組名:わたしの芸術劇場
放送日時:毎週金曜 21:25~21:54、毎週日曜 12:00~12:25<TOKYO MX1>、毎週日曜 8:00~8:25<TOKYO MX2>
「エムキャス」でも同時配信
出演者:片桐仁
番組Webサイト:https://s.mxtv.jp/variety/geijutsu_gekijou/

 

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